縄文遺跡群 「文明史的意義」世界に発信を


 1万年以上にわたり自然と共生してきた縄文文化の文明史的な意義を世界に発信していきたい。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)は、青森市の三内丸山遺跡など17の遺跡で構成される「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界文化遺産への登録を勧告した。7月に開かれる世界遺産委員会で正式に決定される見通しだ。

 自然と共生する文化

 縄文時代は約1万5000年前から、稲作が本格化する弥生時代まで1万年以上続いた。採集や漁労、狩猟をなりわいとして定住生活を行っており、農耕・牧畜への移行に伴い定住が進むという西洋的歴史観を覆す独自の文明を築いた。イコモスは「先史時代の農耕を伴わない定住社会と複雑な精神文化に加え、定住社会の発展段階やさまざまな環境変化への適応を示している」と評価した。

 縄文人は農耕・牧畜を営まなかったが、決して原始的な生活を送ったのではなく、ユニークな精神文化を育んだ。それは、火焔型土器など美的にも卓越した縄文土器、呪術的な意味があったと考えられる土偶などにうかがえる。青森県八戸市の遺跡で発見され、国宝に指定された「合掌土偶」のように宗教的な生活を伝えるものもある。

 縄文時代が1万年以上も続いた理由は、外敵の侵入が少ない島国の環境もあるが、何より日本列島の豊かな自然と共生する文化であったことが大きい。貝塚からはサケなどの骨も発見され、クリやドングリなどの木の実ほか、漁労で得た魚介類も豊富であったことがうかがえる。

 自然と共生してきた縄文文化は、地球規模で深刻な自然破壊、環境汚染が進む現代文明を再考するさまざまなヒントを与えてくれる。世界遺産登録を機に縄文の人類文明史的な意義を世界に発信していきたい。

 縄文文化は稲作が大陸から移入される以前の日本の基礎文化であり、縄文遺跡は北海道や北東北に限らず全国に分布している。石川県能登町の真脇遺跡(国指定史跡)では、縄文集落跡から環状木柱列などが発見され、見事な火焔型土器は新潟県長岡市をはじめとして中部地方を中心に多数発見されている。長野県茅野市では「縄文のビーナス」と愛称の付けられた豊満な土偶も発見されている。

 そういうことから、国内各地に残る縄文遺跡の中で北海道と北東北だけ取り上げることへの疑問もあった。しかし、登録が勧告された17遺跡は縄文時代のすべての時期を網羅しており、「縄文人の生活や精神世界を切れ目なく説明できる」(青森県の担当者)という点で縄文文化を代表する遺跡群として位置付けることができる。大平山元遺跡(青森県)では東北アジア最古の土器も出土している。

 子供たちへの教育充実を

 日本の基層文化が文明史的にもユニークな自然共生型の文化であったことを世界に発信するためには、まずその意義をわれわれ日本人が認識し、誇りを持つことである。子供たちにも歴史や環境教育の現場でしっかりと教えていきたい。世界文化遺産への登録をそのきっかけとすべきである。