WHOの台湾排除 中国への同調が目に余る
台湾がオンラインで行われる世界保健機関(WHO)総会へのオブザーバー参加を5年連続で拒否された。
中国の反対によるものだ。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、中国の意のままに台湾を排除するWHOの姿勢は「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」(WHO憲章第1条)とする存在目的を自ら否定することに等しい。
今年も総会に参加できず
台湾は新型コロナの感染拡大を効果的に抑え込んできた経験を国際社会と共有することで「世界に貢献できる」(蔡英文総統)と、総会へのオブザーバー参加を繰り返し訴えてきた。しかし、2016年の参加を最後に5年連続で参加できていない。
今月上旬に行われた先進7カ国(G7)外相会議の共同声明では、台湾のWHO総会参加に異例の支持が示された。WHOがこうした国際社会の声を無視し、台湾の参加を認めなかったことは極めて残念だ。
中国外務省の華春瑩報道局長は「(台湾)民進党当局が参加問題を騒ぎ立てる真の目的はコロナ禍を利用した独立の企て」などと決め付けている。台湾のWHO総会参加に反対するのは「一つの中国」原則を受け入れない蔡政権への圧力だろう。
台湾では現在、これまで封じ込めていた新型コロナの感染が急拡大している。全世界が感染対策のノウハウを共有すべき時に、どのような国・地域も政治的立場を理由に排除されることがあってはならない。
WHO憲章前文には「人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく、最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権の一つ」と記されている。WHO加盟国の中国はもちろん、中国の身勝手な姿勢に同調したWHOも台湾に対する仕打ちを恥じるべきだ。
新型コロナ対策でWHOが中国寄りであることは、大きな問題となっている。WHOは昨年1月23日の緊急委員会で緊急事態宣言を見送り、同30日にようやく宣言を行った。この1週間の遅れで感染が拡大したにもかかわらず、WHOのテドロス事務局長は中国が感染封じ込めに「並外れた措置を取った」などと高く評価した。
WHOは今年1月から2月にかけて中国で現地調査を行い、動物から中間宿主を通じて人に感染したとの仮説が最も有力とする一方、武漢の研究所からウイルスが流出したと疑う説は「極めて可能性が低い」とほぼ否定する報告書を出した。
だが、日程が中国ペースで進むなど調査は極めて不十分なものだった。研究所の研究者3人が19年11月に体調不良となって病院で治療を受けていたと報じられ、米国は追加調査が必要だと改めて主張している。
覇権拡大に加担するのか
中国は経済力を武器に台湾の外交関係を切り崩してきた。蔡政権発足の16年5月以降、台湾と断交して中国と国交を樹立したのは7カ国で、台湾と外交関係を結ぶ国は15カ国に減った。中国による台湾侵攻も危惧されている。国際機関のWHOが中国の覇権拡大に加担するかのような行動を取ってはなるまい。