東ア経済連携 中国の影響力強化に警戒を
日本と中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国など15カ国は、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉で合意に達して協定文書に署名した。世界経済・貿易の3割を占める最大規模の自由貿易圏が誕生する。
日本の経済成長も期待されるが、急速な軍備増強や覇権主義的な動きを続ける中国の影響力強化には警戒を要する。
インドが交渉から離脱
RCEPは、自動車をはじめ工業製品や農産品の関税撤廃、電子商取引、知的財産権の保護ルールといった幅広い分野にわたる。全体の関税撤廃率は91%に上る一方、日本が「聖域」とするコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖は関税削減の対象から除外された。
日本にとっては、中韓両国と初めて結ぶ経済連携協定(EPA)となる。また、ASEAN各国には日本の自動車メーカーなどが多数進出しており、完成車や部品の関税がアジア広域で撤廃・削減されれば企業の国際展開に追い風となりそうだ。
ただ先進国や発展途上国などさまざまな国々が参加しているため、自由化のレベルは環太平洋連携協定(TPP)などに比べると低い。中国向けの輸出では、完成車の関税撤廃で合意できていない。
人口約13億人のインドが安価な中国製品の流入を嫌って交渉から離脱したことで、交渉参加国の中で最大の経済規模を持つ人口約14億人の中国の影響力が強まることも懸念される。中国は米国が参加しないRCEPを自国の経済的勢力圏の拡大につなげ、域内貿易の主導権を握って米国に対抗する構えだ。
中国は域内人口の半分以上を占め、サプライチェーン(部品供給網)の展開が進めば参加国の対中依存度が一段と高まりかねない。中国の習近平国家主席は4月、経済政策を担う共産党組織、中央財経委員会の会議で「国際的なサプライチェーンをわが国に依存させ、供給の断絶によって相手に報復や威嚇できる能力を身に付けなければならない」と強調した。
中国がRCEPの早期合意を主張した背景に、こうした狙いがあるとすれば看過できない。中国は2010年9月に沖縄県・尖閣諸島沖で起きた中国漁船領海侵犯事件を受け、日本へのレアアース輸出を停止する報復措置に出た。他国に圧力をかけるため、RCEPの枠組みを利用することは許されない。
日本は、同じく中国と領土問題で対立するインドとの協調を重視してきた。RCEPでは発効から18カ月は新規加入を受け付けないが、インドに対しては加入へ再交渉を促す措置を定めている。
日本は自由貿易圏拡大を
日本はインドに対してRCEP復帰を呼び掛けていくとともに、インドを含む政治経済体制の近い国々に働き掛けて自由貿易圏の拡大を主導すべきだ。
TPPは英国が加入に意欲を示している。航行の自由や法の支配の浸透を目指す「自由で開かれたインド太平洋」構想や、自由化レベルの高いTPPなどによって、中国の露骨な国益追求や膨張主義に対抗していく必要がある。