米で「孔子学院」全廃の動き
米国の大学で中国の語学教育機関「孔子学院」を閉鎖する動きが相次いでいる。孔子学院を通じた中国政府のプロパカンダ工作やスパイ活動を懸念する議会や政府が、圧力を強めていることによるものだ。この1年半で少なくとも15の大学が閉鎖を決定。孔子学院との関係を見直す流れが生まれつつある。
(ワシントン山崎洋介)
政府・議会 中国のスパイ活動警戒
10年で1.5億ドル提供 7割報告怠る
今年4月から5月上旬にかけて、インディアナ大学など四つの大学で孔子学院閉鎖が立て続けに発表された。その判断の決め手となったのが、昨年8月に米議会の超党派の賛成で成立した国防権限法だ。ここには、孔子学院を設置する大学は、国防総省が「免除」を認めない限り、同省が資金提供する中国語プログラムを運営できないとする条項が盛り込まれた。ニューズウィーク誌(4月30付電子版)によると、同省は「国益にならないと判断した」として、大学側からの13件の免除申請をすべて拒否したという。
このプログラムは、安全保障分野を担う政府幹部を多く輩出する「名声の高い」(ワシントン・ポスト紙)語学講座として知られる。これと孔子学院との二者択一を迫られた形となった大学は、次々と孔子学院との関係を断ち切ることを選んだ。昨年12月以降、少なくとも6大学が同法を理由に孔子学院との契約解除を発表している。
4月下旬に閉鎖を発表したオレゴン大学は、声明で「孔子学院を閉鎖しなければ、中国語プログラムへ国防総省から補助金を受け取ることはできなくなった」と理由を説明。それによると、同大は2016年度以降、国防総省から計約380万ドルを助成されてきた。しかし、学生が中国に留学する費用などとして新たに申請した34万3000ドルの補助金が孔子学院を閉鎖するまでの間、保留扱いにされたという。
孔子学院については、天安門事件など中国共産党にとって敏感な話題をタブー視することなどが問題視される。また、米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は昨年2月、孔子学院がスパイ活動に関わっている疑いで調査対象となっていると議会で証言した。昨年、こうした学問の自由の抑圧やスパイ活動を懸念する米議員らが大学に書簡を送った結果、米国で学生数が2番目に多いテキサスA&M大学などが孔子学院の閉鎖を決めた。
貿易や安全保障をめぐって米中対立が強まる中、米国に残る約90の孔子学院についても、議会からの圧力は高まっている。
大学側からの13件の免除申請をすべて拒否した国防総省の判断を評価した共和党のルビオ上院議員は、「共産主義の中国政府が学術機関に影響を及ぼし、中国の政策への批判的な分析を妨害することは、国内外で言論の自由を抑制し、情報を検閲する活動の一部にすぎない」と警告し、他の大学も孔子学院を閉鎖するよう促した。
孔子学院と大学との契約内容や資金の流れの不透明さの問題にも焦点が当てられている。
2月に発表された米上院国土安全保障・政府問題委員会常設調査小委員会の報告によると、大学が孔子学院と結ぶ契約の幾つかは、「中国の法律を遵守(じゅんしゅ)」することを大学に義務付けたり、契約内容を公開することを禁じている。
また、この10年間で1億5000万ドル(約160億円)以上の資金が中国から孔子学院を設置する大学に提供されたが、約70%の大学が法律に定められた国への報告義務を怠っていたという。
報告書は、大学に孔子学院との契約内容の公開を求めるとともに、外国から大学への寄付金について政府が監視を強めるべきだとした。
17年に孔子学院についての調査報告書を発表した全米学識者協会政策ディレクターのレイチェル・ピーターソン氏は、本紙の取材に対し「外国政府から大学への資金提供に対して、透明性を高める措置が必要なことは明らかだ」と述べ、政府による監視強化を求めている。