再浮上するロシア・ベラルーシ連邦国家
形骸化しているロシア・ベラルーシ連邦国家に新たな動きがみられる。ロシアの憲法の規定により2024年に任期が終わり再選はできないプーチン大統領が、ロシア・ベラルーシ連邦国家の元首に就任することで、事実上の終身大統領となる選択肢を得るものと見られている。
(モスクワ支局)
プーチン氏「終身大統領」も
ルカシェンコ氏排除の臆測
ロシアとベラルーシを統合し、一つの連邦国家をつくるロシア・ベラルーシ連邦構想は、エリツィン時代に具体化した。1999年、エリツィン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領が「ベラルーシ・ロシア連合国家創設条約」に調印。同条約は2000年に発効した。
ロシアにとってベラルーシは、北大西洋条約機構(NATO)と対峙(たいじ)するロシアの「緩衝地帯」である。旧東欧諸国を失ったロシアにとって、ベラルーシを自らの陣営に確実に繋(つな)ぎ留めることは、政治的・軍事的な価値がある。
一方、ベラルーシは、「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ大統領の下、市場経済化などの大きな経済改革は行わず、ソ連時代さながらの経済体制を維持している。このベラルーシの生命線は、ロシアから供給される安価な原油や天然ガスだ。
「スラブの兄弟」としてロシアにすり寄るベラルーシが輸入する安価な原油は、ベラルーシで精製され、その石油製品はロシアや欧州などに輸出されている。カリ肥料と並び、ベラルーシ経済を支える重要な輸出品だ。これなしで経済は成り立たない。
また、ルカシェンコ大統領にとって、ロシア・ベラルーシ連邦国家の最高指導者に就任することは、長年の野望であった。
しかし、プーチン大統領が就任すると、状況は一変する。「経済規模はロシアのわずか3%(プーチン大統領)」というベラルーシとの対等な統合にプーチン大統領は難色を示した。
その後、ロシア・ベラルーシ連邦国家は形骸化し、ほぼ名目上の存在に変わっていった。しかし、ベラルーシに対するさまざまな支援はその後も紆余(うよ)曲折を経ながら継続した。
この状況が大きく変わったシグナルは、昨年8月10日にロイターが配信した記事だ。ロシアの予算状況が厳しくなる中で、ベラルーシへの安価なエネルギー輸出を制限する、との内容である。その後、ロシアとベラルーシの経済関係は大きく変化していった。
これまでルカシェンコ大統領は「スラブの兄弟」との表現を使い、ほぼ代償なしで安価なエネルギーを得ていた。しかし、昨年12月29日に行われたプーチン大統領との会談では、ベラルーシの特産品であるジャガイモ4袋と、豚肉の脂の塩漬けを持参した。
ルカシェンコ大統領も状況の変化に対応し、必死に連邦国家を維持しようとしている。しかし、なぜこの時期に、連邦国家が改めてクローズアップされたのか。それは、プーチン大統領は24年に任期満了を迎え、憲法の規定で、再選ができないからだ。
すでに憲法裁判所のゾリキン長官などから、憲法改正の観測気球が上げられている。しかし、憲法を改正しての任期延長は対外的な評価に関わるうえ、今後、同様の事態を招きかねない懸念がある。
そこで浮上しているのが、ロシア・ベラルーシ連邦国家を、ロシアが事実上ベラルーシを吸収する形で実現し、その最高責任者にプーチン大統領が就任するのでは、との見方だ。
これにルカシェンコ大統領が抵抗する場合、来年のベラルーシ大統領選挙にロシアの息のかかった候補を擁立し、ルカシェンコ氏を排除するのでは、とも言われている。24年まではまだ時間があり、また、ベラルーシをそのまま吸収するのはロシアにとっても負担が大きい。このため、この5年間で検討を重ねながら、通貨の統合や関税の一元化などの方策からスタートするとの見方がある。