2期連続の景況感悪化でも楽観論が目立った読売、日経の短観社説
◆米通商政策が影響か
日銀が2日に発表した全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業製造業の景況感が、5年半ぶりに2期連続で悪化したことが明らかになった。
4日までに社説で論評した新聞は、読売、日経の2紙だけと寂しい状況だが、先述のような状況でも両紙とも、それほど不安視はせず、楽観論が目立った。
読売は、製造業の鉄鋼や非鉄金属、自動車などの業況判断が悪化したが、それは「米国の保護主義的な通商政策が大きく影響していると言えよう」としつつも、「景況感回復の勢いは鈍ったが、水準は総じて高い。過度に悲観する必要はないだろう」との判断で、「景気の踊り場状態がどの程度続くのか、冷静に見極めたい」というわけである。
もう一方の日経は、読売よりやや慎重で、冒頭、「企業の景況感が一服している」の一文から社説が始まる。
文中では、中東情勢の緊張を背景とした原油高など原材料の値上がりが企業の景況感に水を差していること、また、米国を震源とする貿易摩擦への懸念の強まりから、関連産業の裾野が広い自動車などで悪化が目立っていることを挙げ、「実体経済の変調につながらないか、注視が必要な局面である」とした。
それでも、やはり、基調は読売と同様、景況判断の「指数の水準は、なお大幅なプラス圏にある」などとして、「景気の拡大基調が腰折れすると判断するのは時期尚早だろう」である。
◆設備投資意欲は旺盛
両紙の楽観論の大きな理由になっているのは、設備投資のようである。
短観では今年度の設備投資計画は、大企業全産業で前年比13・6%の大幅増となっており、日経は、企業の設備投資意欲の強さは「注目すべき」と強調した。6月時点の集計としては、1980年代のバブル期を上回る積極的な計画で、しかも、従来型の生産能力の増強にとどまらず、省力化投資を重視しているのが特徴だ、という。
読売も、「業績が好調な企業を中心に、設備の更新・改修の動きが続く。人手不足に対応するための省力化投資も下支えした」として「企業が設備投資に積極的なのは心強い」と評価する。
確かに、設備投資計画が実際にその通りに実施され、実績値としても同じなら、日経、読売の言う通りだろう。
ただ、年度当初の計画はもともと数字が大きく出やすく、実績値はこれを大きく下回るのが最近の常である。
まして、今回は多少とも両紙が心配する貿易摩擦が一段と激化する恐れがあることや原油高の状況に置かれ、「原材料価格の上昇を販売価格に転嫁できず、利益が縮小している」(日銀調査統計局)状況である。そうした懸念がより顕在化すれば、企業の景況感は大きく後退し、設備投資計画も下方修正されることが必至となる。
◆希薄な先行き警戒感
読売、日経には、企業のそうした先行きへの警戒感が希薄である。だからこそ言えるのか、「特に、将来の収益源となる新規事業への投資を活発化させることが肝心だ。各企業が中長期の成長戦略を描き、その実現へ前向きに動くことが求められる」「企業は生産性向上に資する先端技術の導入や働き方改革を加速してもらいたい」(読売)などと、企業への注文が少なくない。
もちろん、こうした注文は、企業の利益が過去最高の水準にあり、「利益を積み上げた内部留保も総額400兆円を超える」(読売)状況では、必ずしも全てがないものねだりというわけではない。読売が指摘するように、「業績の良い企業は、賃上げにもっと積極的に取り組むべきだ」とは思うが、海外要因から企業を取り巻く環境が以前より厳しくなってきていることへの言及がもっとあってしかるべきでなかったか。
日経の「日本企業は生産性の向上で足腰を鍛え、世界経済の動向をめぐる波乱含みの展開に機動的に対応していくことが欠かせない」との指摘も、多分にお役所文章あるいは教科書的文章である。
今回は論評を発表した2紙だけのウオッチとなったが、「5年半ぶり2期連続の景況感悪化」という内容に、他紙の論評がもっと読みたいところである。
(床井明男)