プーチン露大統領4選、社会の無気力感に拍車か

元スパイ暗殺未遂、深まる欧米との溝

 プーチン大統領が3月18日の大統領選で、7割以上の得票で4選を果たした。選挙結果を見る限りではプーチン政権は盤石に見えるが、若者を中心に政治への無気力感が漂う。欧米との対立を利用し愛国心を煽(あお)り、政権への求心力としているが、国際社会でのロシアの孤立を一層深刻化する結果を招いた。
(モスクワ支局)

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3月18日、モスクワ中心部の広場で、大統領選圧勝を受け笑顔を見せるロシアのプーチン大統領(EPA=時事)

 大統領選挙とはいうものの、有力な対立候補は不在であり、プーチン大統領の信任投票との形容が、実態を最もよく表している。得票こそ7割を超えたが、投票率は67・5%で、政権が目標とした70%を下回った。

 投票用紙の束を投票箱に入れるなど、数々の不正行為の映像がネットにアップされた。投票率を上げるために、当局が行ったものと見るのが自然だろう。

 プーチン大統領が3選を果たした2012年大統領選も、同じような“信任投票”であったが、当時はそれでも、人々は社会変革に向けた熱意を持っていた。2011年末下院選の不正投票疑惑をきっかけとした抗議デモは、翌年3月の大統領選に向けた「反プーチンデモ」に変わり、ロシア各地に広がった。

 「反プーチンデモ」に人々を駆り立てた最も大きな理由は、政権に蔓延(まんえん)する汚職への怒り。これを受けプーチン大統領は、大統領選期間中に主要紙に寄稿した論文で、「われわれは汚職に打ち勝たなければならない」と強調し、次期政権で汚職対策に力を入れることを表明した。

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英南部ソールズベリーで、元ロシア情報員スクリパリ氏と娘ユリアさんが搬送された病院前=3月6日(EPA=時事)

 そのような社会の空気は、今回の大統領選では感じられなかった。何も変わらないことへの無気力感が社会を覆っていた。反政権ブロガーであり、大統領選への参加が認められなかったナワリヌイ氏による抗議デモはあったものの、全く広がりを見せなかった。

 プーチン大統領4期目のこの6年間は、憲法の規定に従えば、事実上、最後の任期になる。エリツィン元大統領は、辞任後の自身と家族の安全のため、プーチン氏を後継者とした。6年後にも同様に、プーチン大統領が後継者を決めるのか、それとも憲法を改正し、次期大統領選に出馬するのか。どちらにせよ、プーチン大統領が圧倒的な力を持つこの中央集権体制下では、欧米で言うような政権交代は望めない。プーチン大統領3期目で無気力感に覆われた有権者らが、再び変革を求め立ち上がる可能性は、あまりないだろうとの見方も強い。

 一方、国際社会に目を向ければ、ロシアの孤立はさらに深まる様相を見せている。

 大統領選直前の3月4日、英国で元ロシア情報機関員らに対する、神経剤を用いた暗殺未遂事件が起きた。ロシア人で英国の二重スパイであったセルゲイ・スクリパリ氏とその娘に、ロシアの化学兵器ノビチョークが使われたとされる。

 英国のメイ首相は「ロシアが関与した可能性が極めて高い」と述べ、23人のロシア外交官を国外追放とした。米国もロシア外交官60人を国外追放し、欧米から国外退去命令を受けたロシア外交官は150人を超えた。

 ロシアは関与を否定しており、欧米の措置に対抗し、25カ国、約140人の外交官を国外退去させると発表。ロシアのメディアでは、事件は英国の自作自演だとする、半ばヒステリックな論調の報道が続いている。

 ロシアがウクライナのクリミアを併合して以降、欧米だけでなく、ロシアから天然ガスや石油などエネルギー供給を受ける国々や、旧ソ連諸国との関係が悪化した。ロシアがクリミア併合を正当化する理由として、「在外ロシア人同胞の保護」を主張したことも、同様に在外ロシア人を抱える近隣諸国の警戒を呼ぶこととなった。

 クリミア併合は多くのロシア人を熱狂させ、プーチン大統領の人気を盤石のものとした。プーチン政権には、「クリミア併合以前」のロシアに戻る選択肢はない。しかしそれは、欧米との関係改善だけでなく、より近い関係にあった近隣諸国との関係も冷え切らせたままとし、ロシアの孤立をさらに強める結果しかもたらさない。

 数字の上では、圧倒的な得票でプーチン大統領は4選を決めた。しかしその代償として、ロシアの内外の問題は、深刻さを増すばかりである。