増額続ける中国の国防予算
危機感と対抗心強める米
米中核軍拡競争を招く恐れ
中国では、第13期全国人民代表大会(全人代)の第1回会議が5日に北京で開幕し、李克強首相による政府活動報告では国家運営に当たり改革と成長の均衡が提起され、2018年の経済成長目標は6・5%と前年並みに設定された。
国防関連では、李首相は国防・軍隊建設において「強固で現代的な国境・領海・領空の防衛体制の構築を強調し、国家主権と海洋権益を断固として守る」と強調した。そして軍事改革で目標に掲げられた30万人の兵力削減については「各方面の連携で基本的に完了した」と初めて明らかにし、注目された。これらを踏まえて、18年の国防予算は1兆1069億元(約18兆円)が採択され、前年比で8・1%増となった。昨年の国防予算は初めて1兆元(約17兆円)の大台を超えたが、前年比で7%前後の増額であったものが、今年の国防予算は昨年の伸び幅は超えている。習近平軍事改革が重視されている証左と見ることができよう。
中国の公表国防予算は、国内総生産(GDP)伸び率(6・9%)を上回っており、わが国の防衛費の3・6倍にもなって、米国に次ぐ世界第2位となっている。さらに中国経済の低迷で財政赤字は2兆3800億元(約39兆円)を超えるような厳しい財政状況にあって、国防費は特別視され、優遇されている点も看過できない。周知のように中国の国防関連投資は、公表される国防予算以外に隠された財政支出があり、その実質は公表国防費の1・5~2倍といわれる総額となり、その不透明性が対中疑念につながっている。
見てきたような事情を踏まえて、中国の国防予算案を二つの視点から検討しておきたい。第1は18年国防予算は中国が追求する「軍事力強化(強軍)建設」の条件を満たすか、である。昨秋の第19回党大会の政治報告で、21世紀中葉(建国100周年)までに「総合的な国力と国際的な影響力で世界トップレベルの国家となる」戦略が表明され、習指導部のグローバル覇権の野望を垣間見せたが、それを支える「強軍建設」は進展するか、の問題である。
実は「強軍建設」に向けて16年から、大規模な習主席主導の軍事改革が進められてきた。習近平軍事改革は本欄で既報(16年10月17日付)のように、3段階にわたる軍事組織の解体的な改編が進められてきた。その後、軍事改革は「統合運用の効率化と党の指導重視」の二兎(にと)を追う近代化として進められ、具体的には①軍事力建設は「量・規模型から質・機能型」に転換②軍民融合の発展戦略の貫徹―などが追求されてきた。
そして中国の兵器装備の近代化は、特有の先進軍事技術の模倣が主で創新的な開発力があるわけではないものの、それでもJ21ステルス戦闘機の運用開始、PL15空対空ミサイルで追尾能力が300~400キロと大幅増、095型攻撃型原潜の運用開始、10個の多弾頭化したDF41大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの成果がうたわれている。今後、兵器・装備の近代化にはさらなる多額の経費が必要とされようが、経済低迷下でどこまで国防投資が増やされるか、今後の中国の国防投資に対する監視の継続が必要になる。
第2の視点は、中国の自国中心の国防予算の増額がもたらす米中軍拡競争への懸念である。トランプ米大統領は1月に公表した「国家防衛戦略」で、中国を最大の脅威と位置付け、18年度国防予算7160億ドル(75兆1800億円)を要求している。周知のように、12年にはオバマ前大統領が、10年間で5000億ドルの国防費削減を決めていた。それが近年、沖縄などの米海空軍の事故多発につながっているとの見方があり、トランプ大統領は昨年就任後から国防予算の増額を進め、本年の75兆円を超える過去最大の国防予算要求につながっている。米国防費は世界一の規模で、中国国防予算の4倍超の巨額であるが、増額を追求する背景には、中国で進む軍事力拡充への危機感と対抗意識がある。
現に米下院軍事委員会は、2月に「極超音速滑空兵器を搭載する中国の新型弾道弾DF17は将来、米海軍の西太平洋への戦力投射を危険にさらす」「北米全域を射程内に置くDF41は米ICBMの先制攻撃能力を阻害する」などの危機感を表明しており、それも米国防予算請求の背景になっているのではないか。さらに中国の水上戦闘艦艇の増強は目覚ましく今年で90隻体制になっており、米海軍が世界の警察官として全海洋に展開する戦闘艦艇60隻を上回っており、性能や質的戦力での対中優位だけでは限界のある力関係の変化に対する危機感も背景にある。
国防予算の増額は中国の軍拡と映って米国を揺さぶり、米中間の軍拡競争につながることが憂慮される。実際、中国が力任せに強軍路線を進め、新兵器を次々に配備する事態は米国には米中力関係への挑戦とも映っている。特に近年、中露両国で進展する核ミサイル戦力強化に不信感を抱いて、核戦力強化にも着手しようとしている。今日、国際社会は北朝鮮の核廃絶という喫緊の課題を抱えており、核大国間で核軍拡が始まることは核拡散防止条約(NPT)体制の危機にもつながりかねず、許されることではない。米中間で始まった国防予算の増額趨勢(すうせい)を核軍拡にまで波及させないよう、核大国の自制を促したい。
(かやはら・いくお)