トランプ氏、一方通行でない情報発信を
トランプ次期米大統領はニューヨークのトランプ・タワーで記者会見に臨んだ。
トランプ氏は共和党の大統領候補に選ばれた翌週の昨年7月27日以降、記者会見を一度も開いていない。メディアへの不信感が理由の一つだとされ、新聞、テレビなどとの対決姿勢を鮮明にしている。次期大統領がこれほど長期間記者会見を行わなかったことは異例だ。
大統領選後初の記者会見
このことに対しては、ジャーナリストらから批判の声が強まっていた。これまで大統領選後には、次期大統領が会見で記者の質問に応じるのが恒例となっていた。トランプ氏の記者会見の12時間前に地元イリノイ州シカゴで最後の演説を行ったオバマ大統領は、2008年に最初の大統領選で勝利してから3日後、12年に再選を決めてから8日後に、それぞれ記者会見を開いている。
記者会見でトランプ氏は「最も多くの雇用をつくり出す大統領になる」と明言。雇用創出のため、企業に米国内での生産強化を促す方針を示した。
日本に対しては、米国の貿易赤字の元凶として名指しで批判した。だが現在、日米間で深刻な貿易摩擦の火種はなく、こうした見方には戸惑いを覚える。
また、南シナ海で造成した人工島の軍事拠点化を進める中国を「経済的にも、南シナ海での巨大な要塞建設によっても、われわれに完全に付け込んでいる」と非難。大統領選を狙ったサイバー攻撃については「ロシアが背後にいると思う」と述べ、米情報機関の分析を認めた。
一方、ロシアとは過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いで協力する必要があることも指摘。「プーチン大統領との関係がうまくいくことを期待している」と語り、現政権で冷え込んだロシアとの関係改善に意欲を示した。
記者会見場は250人以上の記者やカメラマンが詰めかけ、各国メディアの関心の高さを示した。だがトランプ氏は自身の考えを正確に伝えてこなかったとして、これまでもメディアを嫌ってきた。記者会見でもCNNテレビの記者の質問を受け付けないなど、メディアとの対決姿勢を前面に押し出した。
国の内外に影響を及ぼす米大統領の発言は、メディアによってチェックされ、議論の対象になり、米国民のみならず世界中の人々に届けられてきた。人々は、メディアが情報源として不可欠であり、政府を監視する媒体として有効であるとの認識を示してきた。
トランプ氏は大統領就任後もツイッターなどを利用し続ける意向を表明している。しかし大統領としてのあるべき姿勢は、ツイッターで一方通行の発信を繰り返すだけでなく、公の場で記者との質疑応答を活発に行うことだ。
メディアを活用せよ
140字以内の短文で発信するツイッターでは、政策の内容、意味合いを十分に伝えることはできず、記者会見の代用にはならない。第4の権力としてのメディアを活用することが、米国民や全世界の人々の政策への理解をより深めることを忘れてはならない。