南シナ海人工島、周辺国の対中接近促す可能性

2016 世界はどう動く-識者に聞く(3)

新米国安全保障センター上級研究員
エルブリッジ・コルビー氏(上)

中国が南シナ海で進める人工島の軍事化をどう見る。

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 エルブリッジ・コルビー 米国防総省や海軍分析センターなどを経て、現在、有力シンクタンク、新米国安全保障センター(CNAS)の上級研究員。2012年大統領選では共和党ミット・ロムニー候補の安全保障政策チームの一員を務めた。

 米国の軍事専門家の間では、人工島の軍事化は象徴的なもので、大きな意味は持たないとの見方が多い。だが、人工島が地域の軍事バランスを劇的に変えることはないとしても、周辺国、さらには米軍に対して、大きなインパクトを及ぼす可能性がある。

 中国は人工島に滑走路を建設しているほか、レーダーシステムやミサイルシステムなどを設置する可能性がある。人工島は中国の情報収集・警戒監視・偵察(ISR)能力を飛躍的に高めるほか、対潜水艦戦などに用いられることも考えられる。紛争時には前方からの早期攻撃を可能にする。人工島基地は米軍の攻撃には脆(もろ)いが、フィリピンなど周辺国に対する作戦には有益だ。

 重要なのは、中国自身が人工島に軍事的価値を見いだし、投資していることだ。象徴的なものと軽視するわけにはいかない。

人工島が周辺国に及ぼす外交的影響は。

 強大化する中国に直面する東南アジア諸国は、中国を抑制しようとすることが賢明なのか、あるいは中国の側について怒らせないようにすることがいいのか、選択を迫られつつある。人工島は中国にとって、周辺国のバンドワゴン化(対中接近)を後押しする一つの手段となる。

 米国や日本、豪州などは断固とした態度を取らなければならない。それによって、地域の国々に対し、米国や日本などと協力して中国と均衡を保つことが賢明であることを示すのだ。

オバマ米政権は昨年10月に人工島周辺に駆逐艦を派遣する「航行の自由作戦」を実施したが、同政権の対応をどう評価する。

 なぜもっと断固たる姿勢を示さないのか不可解だ。作戦実施までに長い時間がかかり、その作戦についても公表を避けようとしているように見える。行動をためらう時は普通、その行動が正しくないか、相手を恐れる時だ。だが、そのどちらでもない。人工島の建設・軍事化に反対する米国の主張は正しく、また、米国は南シナ海で中国よりはるかに強い。作戦はルーティン(決められた行動)として行うべきだ。

 オバマ政権は事態をエスカレートさせたくないと言うが、エスカレートさせているのは中国の方だ。われわれがこれに対応する用意ができていないと映れば、中国はさらに事態をエスカレートさせるだろう。

人工島の軍事拠点化を物理的に止めるのはほぼ不可能だ。南シナ海での中国の軍事的拡張を防ぐにはどうしたらいいか。

 極めて難しい問題だ。相手の行動を止めるには、その行動がもたらす代償を示さなければならない。各国が結束することで、中国に(人工島建設の)政治的代償を示すのだ。日本や豪州、インドなどに加え、インドネシアやシンガポール、マレーシアといった国々が、中国はやり過ぎだという立場をより明確にするのが望ましい。

安倍晋三首相が検討を表明した南シナ海への自衛隊派遣をどう思うか。

 支持したい。日本が地域の積極的な一員として、中国による一方的な現状変更は認めないとする国々に同調することは好ましいステップだ。

一方、東シナ海での中国の動きをどう見る。

 政治状況や国内要因などに基づき、尖閣諸島周辺での活動を調節する柔軟なアプローチを取っているように見える。中国の行動の背景を正確に理解するのは難しいが、おそらく海上法執行機関の船で「新常態(ニューノーマル)」、つまり、今までと異なる現状をつくりだそうとしている。

(聞き手=ワシントン・早川俊行)