東京五輪成功の鍵 スポーツを身近なものに

みんなで見る機会を増やす

 これまで日本で、ラグビーへの関心がいま一つ高まらなかった要因は、ルールが複雑で分かりにくいと感じている人が多いからだろう。しかし、筆者の経験からすれば、見続ければルールは自然に理解できるようになるものだ。要は、見る機会を増やすことが大切なのだが、トップリーグをはじめとして、試合のテレビ中継が少ないことも人気を定着させる上での壁となっている。

 これを思ったのは、ソウル五輪で銅メダルを獲得した女子柔道の山口香と、陸上の世界選手権銅メダリストで五輪に3度出場した為末大の対談「われらオリンピアン、2020年への野望」(「中央公論」11月号)に目を通した時だった。

 この中で、山口は5年後の東京五輪を盛り上げるためには、「もう一歩、スポーツと社会の距離が近づく必要がある」として、1964年の東京五輪で多くの人が街頭テレビを見て興奮したように、大型画面を使って、みんなで五輪を楽しむ工夫が必要だと指摘した。為末も「メディアは変わっても『みんなで見る楽しさ』という本質は変わらない」と語っている。同感である。

 五輪だけでなく、日本人はスポーツを見て楽しむ機会を増やしたほうがいいのではないか。実際にスポーツがやれるならなおいい。要するに、余暇の使い方が下手なのだ。スポーツ人口やファンが増えれば、トップレベルの選手の実力アップにつながるだろう。

 それから山口はこんなことも言っている。

 「これからの若い選手たちには、『自分は選ばれたリーダーだ』『社会に育ててもらったことへの恩返しをする』というスポーツエリートとしての自覚と覚悟を持ってほしい」

 為末は「僕は、アスリートのセカンドキャリア問題を解決していく方法を今、試行錯誤しながら考えている」と述べているが、山口が指摘したことを若い時から自覚していれば、スポーツ選手が引退したあとの道も見えてくるのではないか。

 山口は個人的な「野望」として「二〇二〇年までに女子種目の監督をすべて女性にする」と語っている。女性の監督が少ないのは確かだが、女子種目だから女性監督というのは短絡的ではないか。男女に関わらず能力で判断すべきだというのなら賛成だが。(敬称略)

 編集委員 森田 清策