見えないガザ戦争解決の道
続くイスラエルの攻撃
ハマスと自治政府は統一を
現在、世界にある都市の中で古い順の上位に入るかつての交易都市ガザが、再び戦乱の中に置かれた。キリスト生誕以前からその存在を世界に知られていたガザ市は、2009年1月、12年11月、そして今年7月と3度にわたってイスラエルの攻撃を受け、血煙と硝煙の中で多くのガザ市民とパレスチナ難民がいつものように犠牲となった。建物、生活ラインは破壊され、生き残った市民、難民は断食の月もその後に続く楽しい祝日も熱風の中での苦しい生活を余儀なくされた。
原因はガザに駐在する「ハマス」(イスラーム抵抗運動)、「イスラーム聖戦機構」、そしてファタハ系武装組織の「アル・アクサ殉教者旅団」等によるイスラエルに対するロケット攻撃に端を発したイスラエルの報復攻撃である。3回目のガザ報復攻撃となった今回の戦争では、ガザ地区に住む人間の約1%近くの住民が犠牲となったと報道されるが、正確なところは未だ不明である。攻撃はイスラエルに近い北部海岸沿いのベイト・ラヒジャ、北東部にあるベイト・ハヌーン地区に集中され住民の居住地域は破壊され生活ラインも崩壊した。
今回を含めて過去3回に及ぶガザ戦争の原因は、ガザ周辺で活動する対イスラエル組織によるロケット等による無差別なイスラエルに対する攻撃によるものだが、いつものようにイスラエルの報復は辛辣(しんらつ)を極め一般市民の多くが犠牲者となった。だが、イスラーム・スンニー派の異端「ハマス」はいつものように残った。開戦と同時に、それぞれの組織の幹部はガザを離れた。ハマス幹部代表ハーリド・マシャル以下は安全な場所に避難し、その後の休戦会議に登場してきた。その結果、それぞれの組織の幹部は無事であり、組織そのものは崩壊しなかった。
すなわちイスラエルの攻撃は一時的な破壊をもたらしたが、この地を包む情勢の基本的構造に何らの変化をもたらすものではなかった。よって将来、今回より優秀なロケットなどの攻撃が再びガザから行われ、それに応じるイスラエルの4回目の攻撃が現実的な問題として予測されることは避けられない結果となった。
ガザ問題には基本的なパターンがある。それは、対イスラエル政策で相反する政策をとるハマスとパレスチナ自治政府という二つの国家の存在に由来する。すなわちパレスチナにはアッバース議長率いる自治政府とイスラーム集団であるハマスという二つの組織があり、前者はイスラエルとの共存を画策し、後者はイスラエルへの聖戦を貫き、それに勝ち、パレスチナにイスラーム国家を作ることを目的としている。
両者はその理由は明らかではないが時々接近し、時には今日見るように統一暫定内閣を作り歩み寄ることがあるが、対イスラエル政策、パレスチナ国家論についての明確な議論が交わされたという情報はない。すなわち両者は、前者がイスラエルとの共存そして近代的な国家建設を目指し、後者ハマスはイスラエルを崩壊させイスラーム国家建設を目的とし、その原則を両者とも崩すことはない。それゆえ両者は相反する集団であり、パレスチナには二つの政府が存在しているという現実を世界に印象づけている。
ハマスすなわちイスラーム抵抗運動は、イスラーム法学者のシェイフ・アハマド・ヤシン(ヤシン師)の下で結成された集団であり、エジプトのイスラーム同胞団との関係を持つイスラーム集団であると同時にイスラエルに対する聖戦を宣言している。イスラエルはハマスをテロ集団とみなし、国際的テロ抑止政策の中で位置づけるが、ハマスは宗教集団としての枠を越えることはない。
ハマス誕生の切っ掛けを与えたのは、パレスチナ自治政府幹部の腐敗問題とイスラエルに対する姿勢に向けられたパレスチナ民衆の反発であるが、スンニー派の流れを汲む宗教集団として独立性を維持している。このような集団の出現はイスラームの歴史の中で数多くの例があり、特にヨーロッパ植民地主義の終焉(しゅうえん)時において多数誕生した。19世紀前半にリビアで活動を開始したサヌーシー、同世紀後半のスーダンで生まれたマハディー(救世主)運動などは聖戦を宣し、大国と戦った。両者とも数十年にわたってリビアとスーダンで宗教国家を建設したが、やがて消滅した。
ハマスもレバノンのヒズボラもイスラエルに聖戦を宣し、イスラエルとの共存を否定している。その意味ではイランも同様であり、それを押さえる法的な力は存在しない。彼らが壊滅するまでこの法解釈は続くというのが常識である。
今回の事件で最も大きな問題点は自治政府側にハマスを押さえる力がないことであり、現実的にパレスチナには二つの政体が存在し、相反する二つの見解が存在していることである。過去に見るように休戦が合意され、再びハマスがガザの支配者となり、やがて今回より強力な武器を装備した後に再び戦火が交わされることになる。これまでのように自治政府がイスラエルとの交渉を重ね、和解の可能性が見えるとハマスをはじめとする武装集団がイスラエルを攻撃、そして和解工作の挫折という流れが繰り返すことは間違いない。その意味でパレスチナ問題の解決はパレスチナ側の統一が前提となる。
(あつみ・けんじ)