イラク全民族・宗派による民族統合政権を 中東問題専門家アミール・ベアティ氏に聞く
イラク出身の中東問題専門家アミール・ベアティ氏(72)は23日、国際テロ組織アルカイダ系スンニ派過激派武装組織「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)の軍事攻勢を受けるイラクの現状についてインタビューに応じた。欧州の中東専門家としてBBCアラブ放送、ドイチェ放送、アルジャジーラ放送などで中東情勢やテロ問題を分析してきた同氏は、シーア派とスンニ派、クルド系などイラク全民族、宗派から構成された民族統合政権を樹立して危機を乗り越えるべきだ、と主張した。
(聞き手=ウィーン・小川敏、写真も)
過激派侵攻で反政府勢力が結集
――ISISが首都バグダッドに迫ってきた。ISISは軍事的に強いのか。
ISISが強いのではなく、マリキ政権が弱いのだ。マリキ政権は脆弱で政治的にも腐敗している。米英のイラク進攻後、米国やイランの外部支援を受け、これまで政権を担当してきただけだ。ISISが国境を越え、イラク第二の都市モスルに迫ってきた時、マリキ首相は救援部隊を派遣する意思のないことを伝えた。そこにクルド自治政府のバルザニ議長が戦闘に参加してきた。イラク軍が職務を放棄すると、バルザニ氏は軍主導権を掌握し、ISISに占領された石油都市キルクークを奪い返すなど勢力を拡大していった。バルザニ派はモスルを奪い返す力を有していたが、やらなかった。マリキ政権にイラクの状況が危機であることを理解させ、退陣を強いる狙いがあったからだ。
――ISISを支援している勢力は。
西側メディアによれば、ISISの勢力は約1万5000人程度とみられる。本来、イラク軍が恐れる勢力ではない。スンニ派の盟主サウジアラビアは、イラク国境を意図的に開放し、多くのテログループを送り込んでいる。その他、イラク軍関係者、フセイン政権時代の支配政党バース党関係者、反マリキ政権グループが支援、ないしは黙認している。ISISの軍事侵攻がイラク国内の反マリキ政権勢力を結集させたのだ。
――シーア派のイランはマリキ政権に軍事支援を申し出る一方、米国との軍事協力すら示唆している。
米国とイランは2003年のイラク戦争の時から間接的な軍事協力関係にあった。イラク戦争の時、米国はイランと軍事協力することでフセイン政権を打倒できた。一方、イランはフセイン政権崩壊後はイラク領土から撤退することを米国側に約束する一方、イラクのシーア派政権に対し政治的的影響力を行使することを米国に認めさせている。
――ケリー米国務長官がイラクを訪問し、マリキ政権と協議した。米国はイラクの秩序回復のために何ができるか。
米国がマリキ政権を長期間、認知したことが間違いだった。米国としては可能な限り早期にマリキ政権を退陣させ、イラク民族救援政権の樹立を支援することだ。情勢は楽観できない。シーア派、スンニ派、クルド系の3地域にイラクが分断される可能性もある。イラク紛争はサウジとシーア派代表イランの代理戦争の様相も帯びてきている。最悪の場合、イラクが第二のシリアとなる危険性がある。