過激組織の復活に世界が衝撃、「厳格なイスラム国家」目指すISIS

 イラク首都バグダッドの解放を叫び南進する国際テロ組織アルカイダ系過激派組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」の目的は、イラクとシリアにまたがる、厳格なイスラム法に基づくイスラム国家を建設することにある。母体は、2003年のイラク戦争後、アルカイダに忠誠を誓い、数々の残虐な刑罰を実行して世界中からその異常性を指摘されたヨルダン出身のザルカウィ容疑者が率いた組織。アルカイダ以上の力と版図を得て復活した同組織に、米国はじめ世界が衝撃を受けている。(カイロ・鈴木眞吉)

イラク宗派抗争が激化、国家分裂も

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21日、バグダッドでイラク国旗を掲げてパレードする志願兵ら(AFP=時事)

 同組織は06年、「イラクのイスラム国(ISI)」として結成された。現在の指導者バグダディ容疑者は、10年ごろ、イラクでの戦闘の責任者となったアルカイダ出身者。11年には、現アルカイダ指導者アイマン・ザワヒリと決別、12年ごろにイラクからシリア入り、13年4月、現在の名称に変更した。

 13年末、シリア東部のラッカやデリゾールを制圧して油田を支配し資金力を強化した。14年にザワヒリから破門されながらも、「ビンラディンの遺志を受け継いでいる」と主張、一貫して「イスラム国家建設」に邁進してきた。

 今年1月にファルージャを制圧、遂に6月、イラク第2の都市モスルを攻略して、首都侵攻まで宣言、モスルでは、中央刑務所から受刑者1000人を逃亡させた。

 ISISは支配地域を、イスラム法で統治、女性にニカブの着用を強制、女性は親族の男性の付添なしに外出できず、女性だけの外出も禁じた。自爆テロや誘拐、暗殺などを無数に行い、同じイスラム教徒、同じスンニ派でも従わないものは殺害するなど、「本家を超えた最過激派」と称される。この残虐行為から逃れるため、モスルからは人口の4分の1の50万人が避難、イラクからの避難民は100万人を超えた。

 国連人権高等弁務官事務所は6月24日、ISISが6月5日から22日の間に、1075人を処刑したと発表、「戦争犯罪に当たる」と指摘した。ISISへの忠誠を拒否したイスラム宗教指導者も相次いで殺害した。

 ISISの宗教思想と実態を見る限り、自由と民主主義とは全く正反対の、「イスラム独裁国家」創建を目指した危険な組織だが、ISISと同じ宗派であるスンニ派住民の一部は、マリキ政権がスンニ派を冷遇したことへの復讐心もあってか、ISISに参加・支援している。

 迎え撃つマリキ・イラク首相は、正規軍が戦わずして逃亡したことから、同じシーア派信徒に頼らざるを得ず、シーア派最高指導者シスタニ師やモクタダ・サドル師が、スンニ派武装組織への聖戦を呼び掛け、軍事パレードを行った。

 イラク軍人の逃亡は、シーア派である彼らにとって、守るべき価値のないスンニ派地域と考えた結果でもあったとされ、マリキ首相が、軍や警察など主要治安組織にシーア派だけを偏重登用していた事実が暴露された形だ。

 これらのことは、宗派抗争を一層激化させ、中東全域を巻き込む可能性をはらんでいる。

 一方、イラク国内のもう一つの勢力クルド民族の反応も深刻だ。米メディアによると、イラク北部のクルド自治政府を率いるバルザニ議長は6月23日、「イラクは明らかに崩壊しつつある」と述べ、中央政府が統率力を失い、軍も警察も崩壊しようとしていると主張、「(待ちに待った)クルド人の独立の機会が遂にやってきた」と言明した。政府軍が逃亡した石油都市キルクークには、クルド自治政府の治安部隊が急襲して掌握、「二度とこの地を手放さない」との決意を示している。

 このことは、イラクが3国家に分断される可能性を秘めており、トルコも巻き込んだ激しい衝突が予想される。バルザニ議長は、「ここまで来た責任は、マリキ首相の権力独占にある」と語り、同首相の退陣を求めた。

 オバマ氏はケリー国務長官を中東諸国に派遣、マリキ首相には、シーア派偏重人事をやめ、シーア派、スンニ派、クルド民族からなる統一内閣の組閣を要請、マリキ氏は7月1日までの挙国一致内閣の発足を約束した。

 米国の影響力低下を見てきたロシアは、マリキ政権を支持、影響力拡大に乗り出した。シリアと同様、イラクをめぐる米ソの対立は、内戦の勃発と泥沼化を経て国家分裂を招来する可能性がある。イランはイラクへの影響力維持を意図、革命防衛隊を派遣した。