野党共闘を批判する維新、安保は大丈夫かと考えさせられる党首討論
「野合」に枝野氏反論
衆院選挙公示前の10月18日、中国・ロシア海軍の軍艦10隻が津軽海峡を通過して太平洋を南下し、鹿児島県の大隅半島と種子島の間の大隅海峡を航行して東シナ海に抜け、19日には対潜水艦ミサイル発射訓練を行った。また、北朝鮮は公示日の19日に日本海に向けて潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射した。
中朝露の軍事挑発の中で始まった今回の選挙。テレビの討論番組では、外交・安全保障や対中国政策が新型コロナウイルス対策、経済政策などとともに注目された。特に安保論議が争点となるのは、その政策に違いのある立憲民主党と共産党および社民党、れいわ新選組が初めて政権選択の衆院選で野党共闘の枠組みをつくり選挙協力したからだ。
この点、与野党もさることながら、むしろ政権批判票を食い合う野党間で議論になった。9党党首による討論を行った24日放送のNHK「日曜討論」の「衆院選特集」では、日本維新の会の松井一郎代表(大阪市長)が、野党共闘を「野党の野合大連合」と呼び、「国の一番の根幹である外交・安全保障を横に置いて、政権選択選挙で有権者の信を問うと、これほど無責任な話はない」と批判した。
これに立憲民主党の枝野幸男代表と共産党の志位和夫委員長が反論。枝野氏は4野党の共通政策合意を指摘し、「安全保障などに違いはあるが、それについては持ち込まない」「政権が代わるとすれば立憲民主党の政権をつくる」「日米同盟を軸として現実的で国土をしっかり守り、その大筋は自民党がやってきた、かつてのハト派宏池会が進めてきた外交・安全保障と大きな違いはない」と述べた。
日米弱める共通政策
志位氏は「野党共通政策を読んでから言ってほしい。その中には例えば安保法制の違憲部分の廃止がある。これは集団的自衛権行使は憲法違反だからやめようということ。これは安保・外交の一番の根幹部分で、しっかり合意している。私たちは日米安保条約廃棄だが、党としては訴えるが政権には持ち込まない」と述べた。強調点が枝野氏と違うが、要するに安保法を“違憲”と考える2015年の反対デモが野党共闘と共通政策の原点だ。その底流には60年安保闘争以来の運動がある。
社民党の福島瑞穂党首も安保法制を批判するとともに沖縄県・辺野古の基地建設の中止を求めた。これも野党共通政策に盛り込まれている。野党共通政策には「平和憲法に基づき、総合的な安全保障の手段を追求し、アジアにおける平和創出のためにあらゆる外交努力を行う」と玉虫色の文言があるだけだ。日米同盟や日米安保条約に言及はしていない。
むしろ、志位氏や福島氏が安保法や辺野古基地建設について主張したことが野党共通政策に明記されている。同日放送のフジテレビ「日曜報道ザプライム」の9党党首討論で、極超音速兵器実験を行うなど中国の脅威に対し、志位氏は「軍事対軍事は危険」として「国際法に基づく外交的批判」を訴えたが、これも上述の野党共通政策の文言の範囲内だろう。その意味では安保で基本政策が違っても乗れる共通政策で、松井氏の「野合」批判は的を射ている。
安保法は集団的自衛権行使を抑制的に認める憲法解釈を閣議決定して制定され、米軍と海上自衛隊の協力を強化した。その廃止や日米合意の辺野古基地建設を中止する野党共通政策から、中国などの軍事的脅威に対し立民が「日米同盟」を連呼しても同盟関係を弱体化させる枠組みだ。
共産にもの申すN党
なお「日曜報道ザプライム」で、NHKと裁判してる党の立花孝志党首が、「共産党の志位さんは国際法批判で話し合えばいいと言うが、当然相手はそういうことを分かっていて、話し合いに応じようとする国ではない」と訴え、「しっかりとした国防、武力を背景にしなければ話し合いに乗ってこない」と批判した。野党共闘がつくられ、共産党に物が言える野党は貴重に思える。
(窪田伸雄)