衆院選各党のエネルギー政策に大社説で厳しい注文突き付けた産経

関西電力美浜原発3号機=2018年7月、福井県美浜町

原発の扱いが焦点に
 衆院選は31日の投開票に向け終盤を迎えている。各党とも自らの党の政策を必死に訴えるが、有権者としてはどこが政権を任せられる政党かを考え、足元の課題を克服し将来の方向性を指し示す人物、政党を選びたい。

 争点の一つは、私たちの暮らしと産業に密接に関わるエネルギー政策である。政府は22日に新しい「エネルギー基本計画」を閣議決定したが、これと前後して、各紙はエネルギー政策に関連した社説を掲載した。各紙の見出しは次の通りである。
 
 20日付毎日「『脱炭素』への戦略/原発の位置付けが焦点だ」、23日付日経「エネ・環境政策は責任と成長の両立競え」、東京「脱炭素への道筋/再エネ増強の具体策を」、24日付朝日「原発政策/10年前を思いだそう」、産経「エネルギー公約/安定供給の議論尽くせ 足元の高騰にも警戒怠るな」、本紙「エネルギー計画/再エネ拡大には懸念が残る」、25日付読売「脱炭素と電力/再生エネの弱点どう克服する」――。

 列挙した中、最も気を放っているのが産経である。同紙は通常2本立ての枠に1本だけの大社説で、「理想論だけでなく、電力・ガスの安定供給の確保など現実的なエネルギー戦略を打ち出してほしい」と訴える。

 各紙とも、各政党は再エネの拡大では大差なく、原発の扱いが焦点になっていると指摘するが、その中でも、産経は「原発を抜きに脱炭素を実現できるのか。その見極めが問われる」と指摘。各党の公約は将来の電源構成に重点を置くが、「いま足元で進む世界的なエネルギー危機にも警戒が欠かせない」と強調するのである。

 確かに、同紙の言う通りで、脱炭素の動きは世界的に広がっているが、「現在の主力燃料であるLNGや石炭の安定調達に支障は出ないのか。そしてエネルギー価格の高騰にどう対応するかなど、与野党とも現在の課題に向き合った建設的な議論を尽くしてもらいたい」と重要な課題を投げ掛ける。

 「地球温暖化を防ぐ脱炭素も重要だが、各党には現実に向き合うエネルギー政策が求められる」というわけで、再生エネや原発、化石燃料など多様なエネルギー構成を通じた強靭(きょうじん)化を求めるのである。

脱炭素といかに両立

 日経が指摘したのは、「気候変動問題で果たすべき責任と経済成長を支えるエネルギーの安定供給とをどう両立させるのか」という視点で、「与野党は説得力のある道筋を示さなければならない」と訴えた。

 日経は、新エネ計画が2030年度に発電量の20~22%を原発で賄うことについて、目標達成には30基近い原発が再稼働し、それらが80%近い稼働率で運転しなければならないと指摘した上で、自民などに対し、「原発を脱炭素の手段として使うなら、まず不信感を取り除く努力が要る」「原発の新増設についても考え方を示す必要がある」としたが、尤(もっと)もな指摘である。

 同紙は立憲民主党や共産党などを念頭に、「脱原発を唱えるなら、原発を減らしながら安価で安定的に電力を供給する方策を具体的に示し国民に問うべきだ」としたが、まさに同感である。

 この点は、脱原発や再生エネの拡大を日頃主張する左派系紙も不満のようで、毎日は「脱炭素化とエネルギーの安定供給を両立する道筋を示さなければ、支持を得ることは難しい」と嘆く。

安定供給触れぬ朝日

 東京も国内の電源構成に占める再生エネの比率が約2割にすぎないことに、「欧州の国々に比べ、相当立ち遅れた感もある。現状のままでは電力不足の不安も残る」と指摘するのである(もっとも、欧州ではフランスなどで原発の重要性は脱炭素に向け一段と高まっているが、その点の言及はなし)。

 朝日は見出しの通り、福島第1原発の事故を忘れてはならないとして、エネルギーの安定供給や、読売が指摘する再生エネの弱点には目も向けない。

(床井明男)