“怒りの風”で市長選に惨敗した与党


韓国紙セゲイルボ

野党は陶酔せず民心を読め

 本当に驚くべき選挙結果と言うほかない。選挙前から野党有利だとは察していたが、これほど与党が惨敗するとは思わなかった。

 今回の選挙の構図はいうまでもなく政権審判だった。平昌五輪当時、女子アイスホッケー南北合同チーム結成時から不公正問題に火が付き、最近の韓国土地住宅公社(LH)事件に至るまで、現政権の不公正問題は有権者の脳裏に一つ一つ刻まれていった。

ソウル市長選で当選した呉世勲氏=6日、ソウル(AFP時事)

ソウル市長選で当選した呉世勲氏=6日、ソウル(AFP時事)

 何よりも不動産問題が怒りの中心にあった。家持ちは公示地価の上昇で税金と健康保険料で悩むほかなく、家がない人々は高騰する住宅価格のためマイホーム購入を諦めなければならない状況だ。これは“怒りの風”を起こすに十分だった。

 それにもかかわらず、与党はネガティブキャンペーンに専念したが、選挙の構図を変える力はなく、ネガキャンの題材選びでも失敗した。題材は簡単明瞭でなければならないが、与党は呉世勲(オセフン)候補の妻の実家が関連したソウル市内の土地疑惑を取り上げた。同疑惑は経緯が複雑で長年の問題なので説明が必要だった。これは感性に訴えるよりは理性に訴えることを意味する。これではネガキャンの効果がなくなる。

 共に民主党もこのような点を見抜いたのか、途中で土地疑惑の焦点を呉候補の虚偽発言に切り替えようとした。ところが一般有権者は「また、土地か」と考え、民主党が持ち出す問題にこれ以上、関心を示さなくなった。民心は一層離れるほかなかったのだ。

 惨敗した与党の苦難はこれから始まる。まず大統領のレイムダック化が早まる。来週の世論調査を見れば明らかになるだろうが、大統領の支持率は一層下落する可能性がある。そうすれば、親文派(文在寅大統領支持派)に亀裂が生まれる恐れがある。自分たちの政治的未来がより重要だと考える彼らが、親文という枠を抜け出そうとする可能性が高いためだ。

 そうなれば李在明(イジェミョン)京畿道知事の党内の立場はより一層堅固になり得る。影響力が弱まった親文派が別の大統領候補を探し出すのは難しいはずだからだ。

 逆に李洛淵(イナギョン)前党代表はこのまま大統領候補として残るか、でなければ辞退するかという岐路に立たされた。今回の選挙の敗北に対する責任が李前代表に集中する可能性が高いためだ。

 その一方で、国民の力は野党発の政界改編の主導権をつかんだ。しかし国民の力もまた勝利に酔っている場合ではない。今回が大統領選の前哨戦ならば、本戦を控えて勝利に陶酔して、旧態を晒(さら)せば、また国民に無視されるようになるためだ。

 むしろ今回の市長選挙における民主党を反面教師としなければならない。政治において永遠の勝者はいないことをいま一度悟って、舞いおりる落葉にも気を付ける姿勢を持たなければならないということだ。

(申律(シンリュル)明智大教授、4月8日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

「盛者必衰」の理をあらわす

 4月7日の選挙が敗北に終わると、与党内では一斉に来年3月の大統領選に目が向いた。韓国大統領の任期は「1期5年」のため、最後の1年ともなるとレイムダック化が進む。時には、本人が離党せざるを得なくなったり、与党が分裂して、一部が離脱していくこともある。沈みかけた船からねずみが逃げ出すようにだ。そして、次に乗るべきボートを探す。これから与党共に民主党内で起こることだ。

 文在寅政権は「積弊清算」の看板を掲げ、過去に遡って“悪事”を掘り返し、死人とその子孫への裁きを行ってきた。歴史上の事件の意義付けが変わることはあるが、文政権の場合、左派思想と民族主義を下敷きに書き換えたから、「英雄」が「民族の反逆者」になったり、「侵略された」のに「攻め込んだ」ことになることもしばしばだった。これほどドラスチックな変化は普通「革命政権」の所業だ。

 文大統領と政権中枢に座る思想を同じくする者たちは今後、わが身に起こることをそろそろ感じているのではないだろうか。文在寅氏はキングメーカーにならない限り、生き延びることはかなり厳しい。“師匠”盧武鉉(ノムヒョン)氏の最期が脳裏をかすめるだろう。

 ただ、選挙までには1年弱残っている。この間、どんな巻き返し策やどんでん返しが練られているか分からず、局面がくるくる変わるだろう。いま出ている面々が最後まで残るかどうかも不明だ。

 「驕る平家は久しからず」という。与党はまともな敗戦分析ができなければ、下野するだけでなく「積弊」として裁かれる。野党は小さな勝利に酔っていて、肝心の大統領候補を擁立できるのかが心もとない。日本よりはるかに厳しい“政治的”生死をかけた闘いが始まっている。

(岩崎 哲)