「自由民主」緊急事態宣言 都市封鎖できないのは弱点

感染抑制に移動制限の法整備を

 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、わが国で初めて7日に緊急事態宣言が発令された。自民党の機関紙「自由民主」4月21・28日合併号は、「未曽有の国難に打ち勝つ」「特措法に基づき緊急事態宣言」との見出しで、同宣言をした安倍晋三首相の記者会見を扱った。

「自由民主」緊急事態宣言 都市封鎖できないのは弱点

新型コロナウイルス感染症対策本部で発言する安倍晋三首相(左から2人目)=16日夜、首相官邸(時事)

 ここで同紙は、首相が「海外で見られるような都市封鎖、ロックダウンを行うものでは全くない」と述べたことをアピールしているが、改正新型インフルエンザ特措法による緊急事態宣言の限界でもある。自粛で抑え込むことができればいいが、欧米のような外出禁止、移動制限を必要とせざるを得ない状況にまでなった場合、打つ手がない。

 非常時に「国難に打ち勝つ」ための法整備が脆弱(ぜいじゃく)では、体制的にも非常時の備えは弱くなる。各国が都市封鎖を挙行して対処しているところ、これを行い得る選択肢がないことはわが国の危機管理上の弱点だ。

 特に問題なのは思い切った対策で先手を打つことができず、小出しに後手後手に回ることだろう。1月にわが国で初の感染者が確認され、2月には感染拡大が徐々に進行したが、緊急事態宣言の法的裏付けを得るのは3月14日になってからだった。それ以前に安倍内閣は2月27日に臨時休校を要請したが、法的根拠がない「呼び掛け」だ。

 3月下旬には東京都が「感染爆発重大局面」の認識を示すなど、感染が広がる自治体の方から政府に緊急事態宣言の発令を求めた。春分の日からの3連休の「緩み」が同月下旬の感染拡大を招いたと指摘されるが、臨時休校を呼び掛けたぐらいなら改正特措法の施行後、可及的速やかに緊急事態宣言を発令していれば「緩み」は回避できた可能性もある。が、これも予(あらかじ)めの法整備の怠りが大きな原因であり、感染収束後の重要な検討課題となろう。

 また、自民党と連立を組む公明党の機関誌「公明」5月号は、「人類への脅威に、どう備えるか」の特集を組み、巻頭対談に政府新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長を務める尾身茂地域医療機能推進機構理事長と同党新型コロナウイルス関連肺炎対策本部副本部長の秋野公造参院議員を登場させている。

 「クラスター発生抑えて感染爆発を阻止」のタイトルにほぼ集約される内容で、尾身氏は「クラスター感染は、新型コロナウイルスの典型的な特徴の一つ」と指摘し、「感染者の8割は、他人に感染させて」ないが、「空気の流れが閉ざされた空間で、人と人が至近距離で一定時間以上交わるといった条件がそろうと、1人の感染者から複数人に感染させる」クラスター感染の抑制を訴えた。

 尾身氏はまた、「中国での対策を参考にすれば、人の移動制限はクラスター感染を抑制する点で非常に効果的だと言えることは分かりました」と武漢封鎖を分析している。

 秋野氏は「政府の基本戦略は、集団感染を徹底して抑制することで事態の終息へ導くものです。人と人との感染を減らす。うつる場所を失ったウイルスは死滅する」と説明。一方、「一定の数の国民が感染して新型コロナウイルスに対する免疫を持つ人が増えると、感染症が終息するという」集団免疫の観点から解決の道筋の分析を試みる専門家もいると指摘した。

 かつてなく政治的にも社会的にも専門家の役割が高まっているが、法的根拠を与えるのは政治家だ。対談は3月末のもので、その後、緊急事態宣言が発令され、政府や都道府県知事から人との接触を8割減らそうと呼び掛けられているが、あくまで外出自粛要請で、目標に届いていない。

 編集委員 窪田 伸雄