中国の太平洋進出、関係国は警戒を緩めるな
防衛省は新型コロナウイルスの感染拡大のため、太平洋島嶼(とうしょ)国の国防相や米国、オーストラリア、英国、フランスなど関係国の参加者を東京に招き、きょう開催する予定だった国際会合を延期した。
防衛省主催の会合が延期
この会合は、防衛省が初めて主催する多国間の国防相会合として、パプアニューギニアやフィジー、トンガの国防相らを招いて意見交換するはずだった。太平洋島嶼国は「自由で開かれたインド太平洋」構想を進める上で非常に重要な地域であり、会合はこの地域で影響力拡大を狙う中国を牽制(けんせい)する意味合いがあった。延期はやむを得ないが、中国への警戒を緩めることがあってはならない。
中国は昨年9月、台湾と断交した南太平洋の島嶼国ソロモン諸島、キリバスと国交を樹立した。多額の資金援助で太平洋での存在感を高めて「一つの中国」原則を認めない台湾の蔡英文政権への外交圧力を強めるとともに、この地域の秩序を主導する米国や豪州に対抗する狙いがあろう。
南太平洋の島嶼国バヌアツでは中国が大規模な港を建設している。昨年10月には豪主要メディアが、ソロモンの地方政府が首都のあるガダルカナル島の北にあるツラギ島(約2平方㌔)を賃貸する契約を中国企業と結んでいたと報じた。この島は第2次世界大戦中に旧日本軍が足場にしていたこともあって、中国の軍事利用への懸念が米豪両国から噴出し、ソロモンのソガバレ首相は契約について無効と宣言した。
中国の資金援助をめぐっては、スリランカが債務を返済できず、南部ハンバントタ港を中国国営企業が99年間租借することとなったため、インドなどが港の軍事利用を警戒している。こうした「債務のわな」が太平洋島嶼国でも繰り返されないか憂慮される。
ソロモンやバヌアツはいずれも、米国と豪州を結ぶシーレーン(海上交通路)上に位置する。米豪はもちろん、両国と共にインド太平洋構想を推進する日本にも、中国の影響力拡大への警戒強化が求められる。
太平洋の米領サモア、北マリアナ諸島、グアムは米国領である。グアムは米国の戦略拠点として基地が置かれている。パラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦とは自由連合盟約を結び、国防権限が米国に委ねられている。中国の覇権主義的な海洋進出を抑える必要がある。
日本は1997年以降、太平洋島嶼国の首脳を招いて「太平洋・島サミット」を3年ごとに開催してきた。2018年5月に福島県いわき市で行われたサミットには、日本と18の国・地域が参加した。中国の脅威を念頭に、これらの国々との防衛協力を強化すべきだ。
防衛交流の停滞避けよ
一方、防衛省は、アジア太平洋地域の軍の幹部らが参加して国防政策などで意見交換する国際会議で、3月に開催する予定だった「東京ディフェンス・フォーラム」も延期した。
新型ウイルス感染拡大の収束の兆しは見えないが、テレビ会議や電話会談などで防衛交流の停滞を避ける必要がある。