滋賀再審無罪、冤罪生んだ捜査は言語道断
滋賀県東近江市(旧湖東町)の湖東記念病院で2003年に死亡した男性患者に対する殺人罪で懲役12年が確定し、服役した元看護助手西山美香さんの再審判決で、大津地裁が無罪を言い渡した。
大津地検が上訴権を放棄したことで無罪が確定した。しかし、冤罪(えんざい)による服役で奪われた時間は戻ってこない。警察や検察の責任はあまりにも重い。
事件性を認める証拠なし
看護助手として男性を担当していた西山さんは、捜査段階で「人工呼吸器を外した」と自白して04年7月に逮捕された。公判で否認したが、一審大津地裁は05年11月、懲役12年を言い渡し、07年に最高裁で確定。大阪高裁は出所後の17年12月に再審開始を認めた。
再審で西山さんは「男性を殺していない」と起訴内容を否認。判決で大西直樹裁判長は、西山さんの自白は変遷を繰り返し、客観証拠とも矛盾しており信用できないと判断した。
また、西山さんは軽度の知的障害の影響で相手の質問に迎合しやすく、滋賀県警の警察官がこうした傾向や自身への恋愛感情を利用して誘導的な取り調べをしたと認定。自白の任意性も否定した。
本来であれば十分な配慮が求められるにもかかわらず、警察が誘導して虚偽の自白を引き出したことは言語道断である。西山さんは今年2月の再審初公判の被告人質問で、取り調べ中に禁じられているジュースやケーキなどの提供を受けたことも明らかにしている。
弁護側は、男性のたん詰まりの可能性を指摘する解剖医の所見を示した捜査報告書や、殺害を否定する西山さん自筆の供述書などを新証拠として請求し、採用された。これらの証拠は、滋賀県警が捜査段階で地検に提出しておらず、再審開始決定後に新たに開示されていた。
有罪立証に不利だと考えて隠蔽(いんぺい)したのであれば、捜査の公正性を根本から揺るがしかねない深刻な事態だ。当初から提出されていれば、西山さんは起訴されなかった可能性が高い。再審でも争う構えだった検察は、昨年夏に新証拠が送られてきた後は有罪立証を見送る方針に転じている。
大西裁判長は男性の死亡について「何者かによって殺害されたという事件性を認める証拠すらない」と結論付けた。冤罪以外の何ものでもないということである。
さらに、裁判長は「裁判や捜査の在り方に大きな問題を提起している。関係者が自分のこととして受け止め、刑事司法の改善につなげる必要がある」と述べた。警察や検察、そして裁判所も、この言葉を肝に銘じなければならない。
徹底究明で信頼回復を
警察や検察に捜査の強大な権限が与えられているのは、治安を維持し、社会正義を実現するためにほかならない。今回のような冤罪が生じたことを恥じ、猛省すべきだ。
特に警察は、誘導的な取り調べが行われたことや、証拠の開示が遅れたことについて原因を徹底究明し、一日も早く真相を明らかにして信頼回復に努める必要がある。