GSOMIA対応は最悪の“敗着”


韓国紙セゲイルボ

文大統領は“復碁”を繰り返せ

 囲碁は人生の縮図だ。盤上で繰り広げられる変化の激しい知略が個人や国家の生存戦略と似ているからだ。囲碁が有益な点は何より復碁(感想戦、局後の検討)ができること。自身が置いた石を最初から辿(たど)ってみると、失敗の繰り返しを避けることができる。

文在寅大統領(右)とジョコ大統領

25日、釜山での東南アジア諸国連合(ASEAN)特別首脳会議を前に会談する韓国の文在寅大統領(右)とインドネシアのジョコ大統領(AFP時事)

 アマ4段の文在寅大統領は2012年の大統領選候補の時に復碁の重要性を力説していた。「復碁を通じて、自身の誤りを顧みることができる。反省を重ねれば同じ失敗を繰り返さない」。そのような意味で大統領自ら今回の韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)事態を注意深く復碁する必要がある。

 GSOMIA事態で真っ先に浮び上がる囲碁用語は“悪手”と“敗着”(負ける原因となった手)だ。強制動員(徴用工)問題に日本が輸出規制で報復したのは安倍晋三首相の悪手であるのは明らかだが、韓国政府がGSOMIA廃棄カードで正面から対抗したのは最悪の“敗着”だった。

 軍事情報交流は日本より韓国にとってより切迫した安保資産だ。それを断つ措置は、相手を威嚇しようと自身を傷つける悪手に他ならない。結局、日本から何の譲歩も引き出せないまま、慌てて事態を取り繕い、現金を与えて手形を受け取るような苦々しい後味を残した。

 日本メディアは「パーフェクト勝利」と自賛し、国内問題で苦境に陥った安倍内閣に“花見コウ”をプレゼントした格好だ。しかも韓国政府は今年8月、GSOMIA破棄決定の直後に「米国も理解した」と発表して、米国からは「嘘」だと抗議まで受けた。

 かつて一度も経験したことのないことが友好国の間で起きている。国家安保では国防と外交の二つの軸が必要だが、今二つとも正常でない。北朝鮮がミサイルを撃ち、中露の爆撃機が南方・東方の海上を飛び回る状況で軍の兵力と士気は後退ばかり。伝統友好国の米日との関係も最悪だ。

 大韓民国は経済的に成功したが、安保では相変らず“欠目”の身だ。地政学的な形勢を見れば三方が海で、大陸に通じる北側は核武装した北朝鮮が塞(ふさ)いでいる。孤立無援の“安保の島”から抜け出そうとすれば韓米日の三角協力を強固に構築する道しかない。

 もちろん日本は良い隣人ではないが、われわれを害さないよう平素から友誼を固めるのが他ならぬ外交の役割だ。中国と日本ですら米国内に友好勢力をつくるために途方もない金と人材を投入しているのに、韓国は米国内の親韓勢力との通路まで塞いでしまった。

 米国大使官邸の塀越しに、日本に向かって竹槍を突き出せば、韓国の外交力が強まり、国家安保がより堅固になるのか。文大統領は自叙伝で「人生が囲碁より数百、数千倍重要なら、囲碁より数百、数千倍熱心に復碁しなければならない」と強調している。

 5200万国民の生命と直結する外交と安保は囲碁より数千、数億倍重要だ。“囲碁の達人”文大統領はGSOMIA事態を繰り返し復碁しなければなるまい。

(裵然國(ペヨングク)論説委員、11月25日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

文氏は「敗着」を認められるか

 「日本の変化がなければGSOMIAは終了する」としていた文在寅大統領だったが、期限ぎりぎりになって終了延期の決定を下した。日本の変化が望めないことと、米国からの強い忠告に折れた格好だ。加えて、韓国内の保守派から中朝を利することになると警告され、それを押してまで破棄することができなかったからだ。

 なぜ、こんなことになったのか。当初、日本を追い込めると思って打った手だった。しかし、もともとGSOMIAは米国が促し韓国側が望んで締結したもの。最初から日本に効く手ではなかった。それどころか、米国の反発まで呼び起こした。とんだ悪手である。

 “囲碁の達人”アマ4段の文大統領がどうしてこんなお粗末な手を打ったのだろうか。協定締結は朴槿恵政権の時のことである。文政権が推し進める「積弊清算」からすれば、前の保守政権が行った政策は「清算されるべき弊害」だ。慰安婦合意を事実上破棄したようにGSOMIAも破棄されるべき対象だった。

 それにこの時期、法相に指名した曺国氏のスキャンダルが噴出していた。これよりも大きな衝撃で国民の目を逸らせる必要に駆られ、協定破棄を出したともいわれている。いわゆる「爆風消火」だ。

 そんな文大統領が敗着を認め、冷静に感想戦を行えるかどうか。それが韓国の今後を左右する。

(岩崎 哲)