中国が米医薬品市場を支配
経済、軍事をめぐって米中の対立が強まる中、米国では、中国製薬企業による医薬品市場の支配に警戒感が高まっている。公衆衛生面での懸念のほか、米軍の活動をも阻害しかねない安全保障上の問題として是正を求める声が上がっている。
(ワシントン・山崎洋介)
安全保障上のリスクに懸念
検査データ改竄も横行
「医薬品原薬の市場において中国の支配が高まる安全保障上のリスクについて決して言い過ぎることはない」。7月31日に行われた米中経済安全保障調査委員会の公聴会で米国防総省保健局のクリストファー・プリースト首席副次官補は現状に強い危機感を示した。
プリースト氏によると、米製薬会社は、医薬品原薬の8割近くを中国やインドからの輸入に頼っている。特に中国への依存度は今後も高まると予想する。
問題は、中国がこうした立場を米国に対する戦略的武器として利用する可能性があることだ。プリースト氏は「もし中国が医薬品原薬の輸出を制限することを決めれば、米国の薬品製造に打撃を与え、民間と米軍の両方で深刻な薬品不足を招くだろう」と懸念を表明。米軍関係者の健康を維持し、核・生物化学兵器の脅威から身を守るために不可欠な医薬品の安全性を確保するためにも、国内生産力の向上や代替輸入先の検討などの対応が必要だと訴えた。
中国から輸入された原薬による問題もすでに発生している。昨年7月には、中国の製薬会社「浙江華海薬業」が製造した血圧降下剤の原薬に発がん性物質が混入されていたことが発覚。その後、欧米諸国や日本などで関連医薬品のリコールが相次いで実施された。
製薬業界について詳しいジャーナリストのキャサリン・エバン氏は同委員会で、「中国の薬品工場では検査データの不正や改竄(かいざん)が横行している」と述べ、利益を最大化させるために安全性を軽視していると指摘した。
医薬品を規制する米食品医薬品局(FDA)は、2016~18年の3年間に中国企業の検査データにルール違反があったとして48の警告書を発行、13~15年までが4件だったことと比べ大幅に増加した。しかし、エバン氏は、海外支部の人材不足などでFDAの検査体制は現状では不十分だと訴えた。
一方、同委員会で証言した米研究機関「ヘイスティングス・センター」のロズマリー・ギブソン上級アドバイザーは、中国は「世界の薬局」になることを目指しており、「その目標に着実に近づいている」と指摘した。同氏によると、中国は07年以降、自国の企業に米国へのジェネリック(後発)医薬品の輸出を奨励してきた。
ギブソン氏が調査したところ、中国製薬企業は談合し、市場価格を下回る低価格で販売。欧米やインドの生産者を国際市場から退出させた後に、価格を吊(つ)り上げ始めることが分かったという。
その結果、米国においてジェネリック医薬品の「産業基盤は崩壊寸前」で、特に抗生物質については、「事実上、産業基盤のすべてを失った」と深刻な現状を語った。
ギブソン氏は「医薬品は石油などのエネルギー、小麦やトウモロコシなどの農産物と同等の戦略的物資として扱われるべきだ」と述べ、製薬業の産業基盤を強化するために政府による投資が必要だと訴えた。
この現状に議会関係者からも是正を求める声が上がる。元下院議員のジョン・ヘイワース氏は8月30日付ワシントン・タイムズ紙で「中国は貿易を軍事・地政学的な利益というプリズムを通して見ている」と注意を喚起。その上で「政策立案者はこの機に乗じて処方薬の安全性を確かにすべきだ。これは、公衆衛生や個人の安全だけでなく、国家安全保障上の重大な問題だ」として、議会や政府に対策を講じるよう求めた。

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