米宇宙軍、軍事的優位性の確保が不可欠


 米国で宇宙領域での軍事活動を統括する宇宙軍(スペースコマンド)が発足した。戦略軍やサイバー軍などに続く11番目の統合軍になる。

 中国やロシアが宇宙の軍事利用を進める中、米国が優位性を確保することは米国自身や同盟国の平和と安全を守るために不可欠だ。

利用進める中露に対抗

 宇宙軍には陸海空などの要員が横断的に指揮下に入り、ミサイル防衛や部隊指揮に欠かせない人工衛星の運用や安全確保などが主な任務となる。

 トランプ米大統領は「敵対勢力は、米国の衛星を攻撃する新たな技術で地球の軌道を軍事化している」と訴えた。人工衛星を攻撃したり、妨害したりする能力を持つ衛星攻撃衛星(キラー衛星)などの開発を進める中露両国への対抗心を示したものだと言えよう。

 宇宙空間は国家による領有が禁止されているため、主要国では近年、宇宙の軍事利用を積極的に進めている。ロシアは2015年に空軍を再編し「航空宇宙軍」を創設。中国は07年に人工衛星をミサイルで破壊する実験に成功し、15年末には人民解放軍にサイバーや衛星防衛担当の戦略支援部隊を新設した。

 米宇宙軍が発足したのは、次代の戦闘領域である宇宙で死活的な国益を守るためだ。これが米軍の新たな章を開くことにもなろう。宇宙軍のレイモンド司令官は、主に中露両国が米軍の宇宙利用を阻む能力を開発していると名指しした上で、最大の任務は「宇宙での軍事衝突を抑止することだ」と強調。日本など同盟国との連携を強めつつ、能力強化を図ると語った。

 日米両政府は今年4月の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)で、中露両国を念頭に宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域での防衛協力を優先事項として強化する方針を打ち出した。日本は米国との連携強化に向けた体制を構築する必要がある。

 防衛省は来年度予算案の概算要求で、宇宙空間での防衛能力強化に向け、航空自衛隊に「宇宙作戦隊(仮称)」を新設するための費用を盛り込んだ。日本の人工衛星に不審な行動を取る他国の人工衛星を監視するためのもので、正式名称となれば自衛隊で初めて「宇宙」という言葉がつく部隊になる。

 防衛省は今後、米空軍基地に航空自衛官を派遣して宇宙に関係する防衛研修などに参加させる方針だ。

 概算要求では、昨年末の防衛大綱と中期防衛力整備計画(中期防、19~23年度)で打ち出した宇宙、サイバーなどの新領域への対応強化を踏まえ、宇宙分野の関連経費に524億円を計上した。この中には、宇宙ごみ(スペースデブリ)を監視するため人工衛星に設置する光学望遠鏡や、通信衛星などへの電波妨害を把握する装置のための費用も含まれている。

日米の防衛協力に期待

 宇宙作戦隊は当面は監視任務が主体となるが、将来的には米宇宙軍との人的交流やノウハウの習得のみならず、宇宙防衛や新技術開発での協力など、宇宙空間における抑止力強化に携わる活動任務が期待される。