アマゾン森林火災、過去にない規模に

ブラジル大統領 国軍動員し消火・監視

 アマゾン熱帯雨林を中心とした南米の森林火災が例年を上回るスピードで拡大している。今も増え続ける火災に対応するため、ブラジル政府は国軍出動による消火・監視活動を決定、国際社会も支援の手を差し伸べ始めた。(サンパウロ・綾村悟)

「地球の肺」破壊に国際社会が危機感

 米航空宇宙局(NASA)は26日、南米各地に広がる森林火災の様子を捉えた衛星画像を公開。その映像は熱帯雨林の保護に関心を持つ多くの人々を驚かせた。森林火災はブラジルやボリビア、ペルーなどにまたがるアマゾン熱帯雨林にとどまらず、ブラジル西部とパラグアイ東部にかけて広がる世界自然遺産「パンタナール」の原生林、さらにはアルゼンチンなど南米全体に広がっていることを示している。

火災が続くアマゾンの熱帯雨林

火災が続くアマゾンの熱帯雨林=23日、ブラジル・ロンドニア州(AFP時事)

 ブラジル国立宇宙研究所(INPE)によると、ブラジル全土では、年初からこれまでに例年を大きく上回る7万3000件以上の森林火災が発生。INPEが観測を始めた2013年以降では最多となった。アマゾン熱帯雨林に近い地域では、非常事態が宣言されている。

 火災はボリビアやパラグアイの森林地帯でも多発。今月19日午後には、この地域で発生した火災による大量の灰が、2000㌔以上離れたブラジル東部の最大都市サンパウロにまで到達し、街全体が灰と暗闇に包まれる事態となった。

 今回の森林火災では、アマゾン熱帯雨林の6割が集中するブラジルに注目が集まり、開発派として知られるボルソナロ大統領に批判が集中している。

 ボルソナロ氏は環境や先住民対策を行う省庁の予算を大幅に削減し、国内外の環境保護団体から非難されているが、これらは前政権から続いてきたものだ。

 ブラジルでは、2000年代初頭から「持続可能な開発」の実現に向けて、政府が先導して取り組んできたが、テメル前政権では、財政赤字削減の号令の下で関連予算を大幅に削減してきた。

火災発生場所

南米に広がる森林火災の様子。赤い輝点が火災発生場所(NASA)

 ブラジル環境・再生可能天然資源院(IBAMA)の予算は、テメル、ボルソナロ両政権で50%以上がカットされ、違法伐採等の監視業務にも事欠く状況だという。

 経済成長を優先する現政権の姿勢は、結果として違法伐採業者などを増長させており、熱帯雨林地帯に保護区を持つ先住民らは、開発業者からの圧力を受けている。先住民保護区は、ブラジルの憲法で守られているが、近年は酋長(しゅうちょう)に殺害予告や懸賞金が掛けられるなど、まさに「無法地帯」と化している。

 欧州各国からの対応を求める声に対し、ボルソナロ氏は、「今は乾期で野焼きの季節だ」「環境破壊を犯してきた先進国に他国を批判する倫理的優位性はない」などと反発してきた。

 しかし、ブラジルをはじめとして世界各国でアマゾン保護を求めるデモが拡大。ボルソナロ政権に対する圧力が強まると、同氏は今月23日、一転して「環境破壊活動には一切の容赦をしない」と宣言し、4万人を超える国軍を森林火災の消火と違法伐採の監視を行うために展開させた。

 また、ボリビアのモラレス大統領も26日、同国で広がる森林火災に対応するため、世界最大の消火飛行機として知られるボーイング747「スーパータンカー」の派遣を要請したと発表した。

 南米の森林火災は、フランスで開催されていた先進7カ国首脳会議(G7サミット)でも議題に上がり、マクロン仏大統領の主導で各国が2000万㌦(約21億円)を消火活動に寄付することを表明した。また、地元紙グロボによると、英政府からは27日、1000万ポンド(約13億円)の支援の打診があったという。

 アマゾン熱帯雨林は、地球全土の森林が出す酸素の20%近くを生成すると言われており、その重要性は「地球の肺」とまで呼ばれるほどだ。また、世界の生態系の10%が存在し、現在も毎年のように新種の生物や植物が発見される自然の宝庫でもある。気象や環境問題の専門家は、アマゾン熱帯雨林の破壊がさらに拡大した場合、生態系の破壊や気候変動にもつながりかねないと警告している。