米国の東アジア戦略に悪影響、日韓摩擦で専門家らが懸念

 日韓関係が悪化の一途をたどる中、米有力シンクタンク、ヘリテージ財団で7日、「日韓貿易紛争」をテーマにシンポジウムが行われた。米専門家たちは、日韓摩擦が米国の対北朝鮮、対中国政策を阻害することに懸念を示したほか、韓国の文在寅政権の対日姿勢への批判も出た。(ワシントン・山崎洋介)

文政権の対日姿勢に批判も

 シンポジウムには、マーク・ナッパー国務次官補代理(日韓担当)のほか、日韓や東アジア分野の研究で著名な7人の専門家が集い、計3時間にわたって日韓関係の現状やその影響について議論。米国の国益に関わる問題として、日韓の対立の行方に関心が高まっていることをうかがわせた。

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米シンクタンクで日韓問題について議論する外 交 問 題 評 議 会 のスコット・スナイダー上級研究員(中央)ら

 日韓双方に中立的な立場を取る専門家が目立つ中、文政権に対する批判に踏み込んだのが外交問題評議会のスコット・スナイダー上級研究員だった。

 朝鮮半島情勢に詳しいスナイダー氏は、文大統領が2015年の日韓慰安婦合意に基づいて設立された財団を解散したことや韓国最高裁による徴用工判決への対応で安倍晋三首相からの不信を招き、「対日政策で自縄自縛に陥っている」と指摘。日本に対する強硬姿勢で支持率が上昇しているが、それは「(日韓の)2国間関係よりも国内政治を優先し、民族主義的な反応を煽(あお)るという犠牲を払った」ことによるものだと苦言を呈した。

 特に徴用工判決については、司法の独立を理由に文大統領が判決を放置していることについて、「行政府には国益のために日韓基本条約を含めた国際合意を守る特別な責任がある」と述べ、解決に向けて政治的指導力を発揮するよう求めた。

 シンポジウムでは、東アジア地域で北朝鮮による核・ミサイルや中国の脅威に対応する上で、日韓関係が米国の対東アジア戦略に与える悪影響への懸念も相次いだ。

 ハドソン研究所のパトリック・クローニン・アジア太平洋安全保障部長は、日韓の結び付きが弱まることで、「韓国が中国、ロシアへの依存度を大きく高める可能性がある」と指摘。その上で、国際秩序の現状変更を目指す中国との戦略的競争において、「民主主義国家でありかつハイテク国家の日米韓が最先端技術に関するルール設定などで協力できなければ、われわれは多くのものを失うだろう」と危機感を示した。

 また、ヘリテージ財団のライリー・ウォルターズ研究員は、韓国は日本が輸出管理を強化した3品目のうち「フッ化ポリイミド」と「レジスト」の90%以上を日本から輸入しているが、「フッ化水素」については日本からの輸入が42%なのに対し中国が46%を占めると指摘。今後、「韓国企業が中国への依存度を高める可能性がある」と警戒し、日韓が解決に向け輸出管理についての実務者協議を再開すべきだとした。

 国防総省でかつて東アジア政策担当上級顧問を務めたカーネギー国際平和財団のジェームズ・ショフ上席研究員は、「北朝鮮の核ミサイル開発に対応するために1990年代後半から日米韓の安全保障協力が進められ、相互運用性の向上など多くのことが成し遂げられてきた」と強調。しかし、今回の日韓摩擦が「ターニングポイントになるかもしれない」と述べ、今後、安保面での連携について危惧した。

 ショフ氏また、日韓両国は「戦略的、経済的な関係が縮小していく状況を進んで受け入れているように思える」とも指摘。「自由で開かれたインド太平洋戦略」の促進や5G戦略、東アジアにおける軍縮を3カ国が連携して推進する必要があると訴えた。