バイデン氏 中絶支援を一転支持

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

国民の大多数は反対
大統領選で不利に

マーク・ティーセン

 

 民主党のカトリック教徒の政治家らは何十年もの間、個人的には中絶に反対するが、宗教的価値観を押し付けることはできないと中絶賛成を正当化してきた。これは、罪のない胎児の命を守れなかったことを正当化し、覆い隠そうとするための言い逃れというのが大方の見方だ。しかし、バイデン元副大統領は、これを事実だと思っているようだ。

 バイデン氏は40年以上の間、中絶への連邦予算の投入を禁止した「ハイド修正条項」を支持してきた。1994年に1人の有権者がバイデン氏に手紙を書き、「中絶費用を負担することは私の良心に反します。やめさせてください」と訴えた。

 バイデン氏は「同感です」とこれに応えた。50回以上、中絶への連邦予算の拠出に反対票を投じてきたと強調し、「中絶に反対する私たちが、そのための費用の負担を強いられるべきでない」と訴えた。

 2007年の著書「プロミス・ツー・キープ(守るべき約束)」で「中絶に関しては30年以上にわたって、中道の立場を取ってきた」と記している。

◇民主党内から反発

 しかし、中道という表現は、現在の民主党には不適切だ。バイデン氏が、ハイド修正条項への支持を改めて表明すると、20年選挙の大統領候補にバイデン氏を推していない人々はこれに反発した。バーニー・サンダース氏は、「女性の権利に関しては#NoMiddleGround(中道などない)」とツイートした。民主党のハリス上院議員は「中絶は、憲法で定めた権利だ」とバイデン氏を非難、「女性が生殖医療を受けられるかどうかは、どれだけお金を持っているかで決められるべきではない。ハイド修正条項は廃止すべきだ」と断言した。ウォーレン上院議員ら多くの民主党員も、家族計画連盟、妊娠中絶権擁護全国連盟(NARAL)、人工妊娠中絶に賛成する政治資金管理団体「エミリーズ・リスト」と同様、これに賛同した。

 先週の段階でバイデン氏はまだ、同様の立場を維持していた。党内の過激主義者から距離を置く姿勢は、「シスター・ソールジャ・モーメント」(政治的な極論を否定し、中道であるように見せること)のように見えていた。筋の通った、素晴らしい政治手法だ。中絶費用を連邦資金で賄うことを支持しているのは米国人のわずか36%だ。

 ところが、バイデン氏は、この過激主義者らに屈した。アトランタでの民主党全国委員会のイベントで6日、「医療を受けることは権利だと思っている。その権利がどこに住んでいるかで左右されるような修正条項はもはや支持できない」と訴え、ハイド修正条項に対する立場を変えたことを正当化しようとした。これはばかげている。米国民は憲法で、武器を保有し、所持する権利を保証されているが、政府が武器を持つ余裕のない貧しい国民に武器を持たせるよう義務付けてはいない。

 バイデン氏が中絶支持の過激主義者らに屈したことで、大統領選に勝てる可能性は下がった。まず、軟弱で、筋を通さないという印象を与えた。ごく一部の中絶支持者は、バイデン氏を見放すだろう。公的資金を中絶費用に充てることに反対しているからだ。確かに、中絶支持者の多くは、バイデン氏と同様の考えだ。しかし、有権者が、主張を変える政治家を支持することはない。

 第2に、民主党が取り戻すことができると主張していた有権者層の信頼も失った。バイデン氏とオバマ大統領に票を投じ、16年にトランプ氏に乗り換えた有権者だ。かつて民主党が頼りにしていたこれらの民主党支持者らは、リベラルエリートとは違い、社会的には保守的だ。中絶過激主義は受け入れられない。

 第3は、過激主義に屈したことで、民主党内の中絶過激主義に全米の注目が集まった。アラバマ州が全米で最も厳しい中絶制限法を承認した時、民主党は、共和党に中絶過激主義者とレッテルを貼ることで優位に立てると考えた。しかし、焦点は、公的資金を使って、必要に応じて、誕生の時まで中絶は可能と主張する民主党に戻った。民主党はニューヨークで、フリーダム・タワーをライトアップし、中絶に対するほとんどの制限を取り払う新法の成立を祝った。イリノイ州では、州の部分出産中絶禁止法廃止の表決が実施された。バイデン氏はこれまで上院議員として、後期中絶には反対票を投じてきた。この点でも過激主義者に屈するのだろうか。

◇国民感情理解せず

 民主党は、中絶支持者を含む米国民の多くが、中絶は祝うべきことではなく、必要悪であり、一定の限られた状況の元でのみ許されるべきものと考えていることを理解していない。

 マリスト/ナイツ・オブ・コロンバス調査によると、妊娠中のいつでも中絶は可能であるべきだと考えているのは13%に過ぎず、80%は、中絶は妊娠初期だけに限定すべき、または、レイプ、近親相姦、母体の命を守るためである場合に限定、または、完全に禁止すべきだと考えている。

 NPR/PBSニュースアワー/マリストの最新の調査では、38%が生命は受胎で始まると考え、75%が遅くとも生命が確認できた時点と考えている。米国民の大多数は、中絶への制限を支持し、連邦予算の中絶への支給に反対している。

 残念なことにバイデン氏は、過激な少数派と手を組んだ。恥ずべきことだ。

(6月12日)