露疑惑報告書、米は分断の遺恨を乗り越えよ
ドナルド・トランプ氏が当選した2016年の米大統領選にロシアがサイバー攻撃などで介入したとの疑惑で、トランプ氏らとの共謀があったか、また大統領就任後のトランプ氏が司法妨害をしたかなどをめぐる捜査報告書の概要が公表されたが、トランプ氏の罪は認定されなかった。問題の区切りであり、米国はリベラルと保守の社会的政治的な分断を乗り越え、世界に強い影響力を持つ自由主義陣営の指導国に相応(ふさわ)しい政治を取り戻すべきだ。
有権者の半数「魔女狩り」
大山鳴動してネズミ一匹の結果だ。証拠をつかめない捜査の継続は政治的なものになっていた。昨年の中間選挙では野党民主党の下院選勝利に影響し、しかも舌鋒(ぜっぽう)鋭く疑惑を追及する左派が同党内で勢力を増やしている。民主党内にはトランプ大統領の正当性を揺るがせて弾劾に繋(つな)げる期待があったが、国民一般の意識は変化している。
報告書概要の公表前の世論調査では、捜査を「魔女狩り」とみる有権者は50%、「信頼できる」は28%と米紙USAトゥデーが公表、大統領弾劾を「支持する」が36%で低下傾向にあるとCNNテレビが報じていた。
トランプ氏の大統領就任後、約2年を費やしたモラー特別検察官の捜査は、トランプ氏に対する民主党やメディアの格好の攻撃材料とされてきた。かつてニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件を模して「ロシアゲート」とメディアは呼称し、“大統領の陰謀”の構図があるかのように騒いだ。
一つの原因は、16年大統領選が民主党陣営にとって遺恨となったことだ。選挙当時、暴言を吐く大富豪でテレビタレントという政治の門外漢のトランプ氏に槍玉(やりだま)に挙げられたオバマ大統領は、トランプ氏の人格や資質を問題にして大統領としての適性に欠けると攻撃した。ところが、ほとんどの米メディアの支持を受け本命視された民主党のヒラリー・クリントン元国務長官が敗れた。
この後、オバマ政権は選挙期間中に民主党全国委員会などの内部メールが盗まれ、告発サイト「ウィキリークス」で暴露された事件などにロシアが関与したとして、露外交官35人を国外追放。民主党寄りのワシントン・ポスト紙などは米中央情報局(CIA)の結論としてロシアの関与はトランプ氏を勝たせる目的だったと報じた。
その上、トランプ氏の大統領就任直前の17年1月には、国家情報長官室が大統領選へのサイバー攻撃などロシアの関与はプーチン大統領が指示したと結論付ける報告書を公表した。
トランプ氏の政権移行チームは「政治的な動きだ」と批判していたが、オバマ政権が最後の権力を用いて、トランプ氏当選を疑惑化させる種を植え付ける意図があったとの印象は払拭(ふっしょく)できない。
冷静さを取り戻すべきだ
疑惑やスキャンダル報道で、トランプ氏には大統領に就任してから約半年間ある政界やメディアとの蜜月期がなく、最初から険悪な関係の中で捜査が進行した。決して好ましい状態ではない。米政界は冷静さを取り戻すべきだ。