カーニバル過激化批判で物議
ブラジル保守派のボルソナロ大統領
今年1月にブラジル大統領に就任した保守派のジャイル・ボルソナロ氏。奔放な発言から「熱帯のトランプ」と呼ばれるが、ツイッターに第三者が撮影したカーニバルの動画を投稿したことが物議を醸している。(サンパウロ・綾村悟)
ツイッターに問題動画
同性婚議論に展開か
ボルソナロ大統領は、民政化後のブラジルに初めて誕生した本格的な保守政権をスタートさせた。閣僚人事では、元将軍のモウロン氏を副大統領に起用したほか、保守的なキリスト教福音派の牧師でもある女性国会議員を人権担当閣僚として迎え入れるなど、保守的な傾向が色濃く表れている。
外交政策においても、前労働党政権下で親交を深めてきた社会主義国のキューバやベネズエラに対して厳しい姿勢を取っている。一方で、軍政時代を賛美したり、女性蔑視や差別的な発言も多く、訴訟を起こされるケースもあるほどだ。
そのボルソナロ氏が今月5日、ツイッターに投稿した動画が大きな物議を醸した。
問題の動画は、サンパウロ市内で今月初めに開催されたカーニバルの街頭での一幕を第三者が撮影してネット上で公開していたもの。ブラジルでは近年、「ブロッコ」と呼ばれる街頭パレードが盛んに行われている。
投稿された動画には、街頭パレードの最中に2人の男性がタクシー待合所の屋根の上に登り、公衆の面前で尻の穴を広げて誘ったり、相方の頭に放尿するなど性的な描写を含む過激な内容が写っていた。
ボルソナロ氏は「(この映像を)見るのは気持ちの良いものではないが、真実を知る必要がある。これが多くのカーニバルが成り果てた姿だ」と、年々過激になっている街頭パレードを批判した。
「ブラジルのカーニバル」として世界的に有名なのは、サンパウロやリオデジャネイロのサンバ専用会場で行われるもの。一方、街頭パレードは誰もが気軽に参加できる。ただし、近年は、パレード中の過度の飲酒や麻薬乱用が問題になっており、風紀の乱れを指摘する声が上がっていた。
ボルソナロ氏の投稿後、動画の再生回数は瞬く間に数百万回を突破。同氏のツイッター記事には、12日の時点で6万4000件以上のコメントが寄せられており、その数は今も増えている。
コメント欄には「大統領の立場にある人が投稿すべきではない」「失望した」など否定的な意見が溢(あふ)れた。一方で、8万6000以上の「いいね」が寄せられているほか、「カーニバルに子供を連れていけない」「よく言ってくれた」など同調する意見も見られる。
その後、問題の動画に登場した2人の男性が匿名でブラジルの大手紙に声明を送り、その内容が公開された。2人は「あの行為は(ボルソナロ政権に対する)政治的なメッセージを込めた芸術行為」などと自分たちの行為を正当化した。
さらに「保守的な思想でわれわれの性的指向を縛り付けないでほしい」と、同性愛に批判的なボルソナロ氏を非難した。ボルソナロ氏は過去に、ブラジルで賛否が分かれる同性婚問題に関して、「自分の息子が同性愛者なら交通事故で死んでくれた方がましだ」と発言し、批判を集めたことがある。
2人の男性の声明に対し、ネット上では賛成意見が多く寄せられる一方で、「公然わいせつの違法行為を芸術の一言で正当化するのか」といった批判の声も上がっている。
ブラジルでは、ボルソナロ氏の就任後、労働党政権下で進められていた公教育での「ジェンダー教育」導入が見直された経緯もあり、今回の動画投稿事件は、同性婚問題を含めた議論につながる可能性があるものとなっている。