強権政治続くベネズエラ
反米左派マドゥロ大統領の下で経済が崩壊、強権政治下の政治亡命も含めて300万人以上の難民が発生している南米ベネズエラ。そのベネズエラへの対応をめぐり、国際社会が割れている。背景には、歴史的に「米国の裏庭」とされてきた中南米で中国が進める「一帯一路」政策やロシアの存在がある。
中国マネーが頼り
武器支援も増加 反政府デモ鎮圧にも
米国を中心とした多くの米州諸国は、暫定大統領就任を宣言した野党指導者グアイド氏を支持しているが、中国やロシア、キューバなどはマドゥロ大統領を支持する。中国政府は29日、米国による新たなベネズエラ制裁を批判、同国の状況に介入するべきではないと主張した。
昨年9月、ベネズエラのマドゥロ大統領が中国を訪問、同国の習主席と会談した。マドゥロ氏の訪中の目的は、中国から50億㌦(約5500億円)の新規融資などを取り付けることだ。
当時のベネズエラ政府からの発表によると、新規融資の他に中国政府と石油や工業、通信など28の分野で協力することに合意、石油権益や金鉱脈の採掘権売却に関しても含まれた。さらに、マドゥロ氏は習主席に対して、中国の「一帯一路」構想を支援することでも約束した。
かつて、南米は「米国の裏庭」とも言われ、政治、経済両面で米国の影響が非常に濃い地域だった。ただし、近年は中国資本の進出が激しくなっている。
膨大な人口を抱える中国は、経済成長に伴ってエネルギーや食料などの消費が増えており、資源や食料など戦略資源の確保は急務だ。ベネズエラの原油、ボリビアのリチウム、ブラジルやアルゼンチンの農産物や鉄鉱石などがそれにあたる。
2000年台初頭、南米各国に左派政権が次々に誕生した際に、中国は各国政府との関係を深めてきた。その中でも、南米の反米左派の盟主で、「21世紀型の社会主義実現」を目指すベネズエラとの関係は深い。同国に対する総融資額は、08年以降で700億㌦(約7兆7000億円)にも上るとされており、その多くが返済されてない。
中国は、その膨大な債務に関してベネズエラが持つ世界最大の埋蔵量を誇る原油を担保としているが、その原油生産も施設の老朽化などで生産が停滞している。中国政府に対して負う膨大な債務は、まさに中国資本への依存抜きにはベネズエラの現政権は存続できない。
こうした中、中国からのベネズエラ向けの武器輸出も増えており、暴徒鎮圧用の武器もその中に入る。ベネズエラでの反政府デモは、激しい鎮圧により多くの死者や逮捕者も出している。
米国やブラジルが支援するグアイド氏による暫定政権が誕生すれば、同地域への政治的影響力が削がれることになりかねない。中国とロシアは、米国の裏庭での両勢力の橋頭堡(きょうとうほ)として、ベネズエラの現政権存続を求めている。
米ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)は、米州各国に対して、強権政治を続けるマドゥロ政権に対する中国からの支援を打ち切らせる必要があると提案、南米全体での中国の活動に関しても、より透明かつ自由な経済活動を行うように圧力をかけるべきだとしている。
また、中国による資源外交は、短期的な資金はもたらすが、長期的な経済成長は望めないと警告、特にベネズエラにおいては、資源担保を背景とした武器供与は同国の独裁政権を延命させているだけでなく、不透明な資金の流れが地域に不安定要素を拡大させていると警告している。
(サンパウロ綾村悟)