ベネズエラ難民が大量発生、対応に苦慮する南米周辺国
コロンビアは100万人滞留
南米ベネズエラは、反米左派のマドゥロ政権下で長年の放漫財政や原油インフラに対する投資不足などが重なり、経済崩壊に近い状況に陥っている。国連は10月8日、同国から隣接する周辺の国々に逃れた難民は300万人に達したと発表した。特にコロンビアは、国内に100万人のベネズエラ難民が滞留しており、対応に苦しんでいる。
(サンパウロ・綾村 悟)
ベネズエラでは全世帯の3分の2が十分な栄養を取れていないだけでなく、医薬品なども慢性的に不足しており、はしかなどの伝染病が蔓延(まんえん)している。さらに、マドゥロ大統領は、独裁的な政治手法で反対派を弾圧、同国を脱出する難民が増え続けている。
約100万人が流入しているコロンビアのほか、ペルーに50万人、エクアドルに22万人など、ベネズエラ難民は各国の大きな負担となっている。
こうした中、コロンビアの首都ボゴタにおいて13日、同国初の難民キャンプが開設された。フランスのシリア難民キャンプを参考にして作られたという500人分のキャンプは、すぐに収容能力を超えた。
難民流入は2015年に始まったが、ここまで難民キャンプ開設が遅れた理由には、対応に消極的にならざるを得ない事情があった。
一度、難民キャンプを開設すれば、その国や都市に難民が集中して押し寄せる可能性があるだけでなく、設立をきっかけとして、より本格的な難民対応を迫られるからだ。開設した現地の地方自治体としても、教育や衛生問題、治安確保など能力を超える受け入れを避けたい事情もある。
コロンビア政府は、これまでは難民対応をできるだけ最小限にしながら、それらの難民がペルーやエクアドルなど他の南米諸国に移っていくことを待っていた。同国自体が、反政府ゲリラや麻薬密売犯罪への対応など多くの問題を抱えていたこともある。
ところが、流入し始めた15年から昨年末までの難民は約18万人だったのが、今年に入ってから約80万人に急増し、対応を変えざるを得ない事態になった。
コロンビアの首都ボゴタに流れ込んだ難民は、線路沿いなどに簡易テントなどを張り、一部は道路で物乞いなどをしながら生計を立てており、治安や衛生面などの問題も深刻になりつつある。
ボゴタ市の危機管理対応チームの関係者によると、人口800万の同市に人口の3%に当たる24万人のベネズエラ難民が流入。パスポートやビザ、労働許可証もない難民がほとんどで、正規の職に就くこともできないという。
ボゴタ市民の中には、難民が低賃金の職を奪いかねないとの懸念や、衛生、治安上の問題をもたらすとの批判の声も少なくない。事実、難民が暴徒によって襲われる事例も出始めているという。対応を間違えれば市の機能が混乱しかねない状況だ。
こうした中、当局は、今回開設したキャンプをきっかけとして、さらなるキャンプ設置の必要性や医療、教育、就労など、どのような対応が必要となるか、見極めようとしている。
ボゴタ市当局内には、難民を積極的に受け入れるべきだという意見もあるという。ただし、受け入れを行う国や自治体の負担も大きい。栄養失調や感染症などに罹(かか)っている難民も多く、食料や医療などの人道対応にはコストが掛かる。
コロンビア国内においても、「国内の貧困問題さえ解決していない状態で、ベネズエラ難民に財政を割く余裕はない」と批判する世論も根強い。実際、コロンビアでは、難民対応で国内総生産の0・5%に当たる財政出動を強いられている。
ベネズエラ難民問題では、近隣諸国はカトリックの宗教や文化圏であり、言語、人種的にも決定的な違いがあるわけではなく、その点は中東からイスラム教徒が大挙して押し寄せた欧州の難民危機とは違う。ただし、財政面を含めた対応力には先進国と比べて厳しい現実がある。
コロンビアを含めた南米隣国は、同地区の歴史上かつてない膨大な難民流入の事態に対して手探りで対応を行っているところであり、国連を含めた国際社会の協力も必要とされている。