ハスペル米CIA長官が就任、拷問関与疑惑も手腕に期待の声

 トランプ米大統領が中央情報局(CIA)長官に指名したジーナ・ハスペル氏が21日、就任した。同氏は、30年以上CIAに勤務してきたベテランだが、過去にテロ容疑者への過激な尋問をしていた施設の責任者だったことが問題視された。一方、同氏を知る歴代CIA長官らが支持するなど、その手腕を期待する声も多い。今後ハスペル氏がトランプ政権内でどのような働きをするか注目される。
(ワシントン・山崎洋介)

対露政策で影響力発揮

 ハスペル氏は、女性で初のCIA長官で、同局のたたき上げが就任するのは50年以上前のリチャード・ヘルムズ氏以来、2人目。秘密工作に従事してきたため、昨年2月にCIA副長官に就任するまで、公には無名の存在で、今でも同氏の経歴について限られた情報しか公表されていない。

トランプ氏(右)とポンペオ氏(左)とハスペル氏

21日にトランプ米大統領(右)とポンペオ国務長官(左)が出席して行われたハスペル中央情報局(CIA)長官の就任宣誓式(UPI)

 ワシントン・ポスト(WP)紙によると、ハスペル氏は、1985年にCIAに入局。エチオピアに配属された後、アゼルバイジャンの首都バクーなどで支部長を務めた。

 その後、ハスペル氏は、テロ対策部門に異動。そこで、テロ容疑者への過酷な尋問に関与した疑いがある。2001年に発生した同時多発テロの後、同氏は「ブラック・サイト」と呼ばれるタイの秘密収容所を管理していたが、ここでは「水責め」などの拷問が行われていたとされる。

 ハスペル氏が初めて公の場で発言した、9日の上院承認公聴会では、この点について厳しい質問が相次いだ。同氏はこれに対し、今後は「いかなる状況でも尋問プロジェクトを再開しないと約束する」と強調。しかし、ベトナム戦争で捕虜となって拷問を受けた経験を持つ共和党のジョン・マケイン上院議員が他の議員に反対を促した。

 投票では、共和党議員2人が反対したが、6人の民主党議員が賛成に回り、54対45で承認された。脳腫瘍で闘病中のマケイン氏は、療養中のため投票しなかった。

 一方で、ハスペル氏を身近に知る元政府幹部からは、同氏を支持する声が上がった。

 公聴会が開かれた9日に、6人の歴代CIA長官、元国家情報長官3人、元国務長官2人を含む50人以上がハスペル氏の長官就任を支持する書簡に署名。その中で、同氏が長官として必要な「誠実さや経験、決断力を持っている」として、議員に承認を求めた。また、オバマ政権時代にCIA長官を務めたジョン・ブレナン氏やレオン・パネッタ氏が、民主党議員に賛成するように働き掛けたと伝えられるなど、超党派の支持を得た。

 ハスペル氏は副長官就任後、ホワイトハウス内で徐々に存在感を高めていったという。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「ポンぺオ長官の出張中に代役を務めるなど、ホワイトハウスに頻繁に出入りしていたことが、今回の指名につながったとみられる」と指摘した。

 ハスペル氏は、特に対露政策をめぐって政権内で影響力を発揮していたとされる。WP紙によると、英国で起きた元ロシア情報員暗殺未遂事件をめぐり、ハスペル氏はトランプ大統領に強硬な対抗策を打ち出して英国を支持する姿勢を明確に示すよう主張。これが、3月下旬の米国によるロシア外交官60人の国外追放などの措置につながったという。

 トランプ氏は、21日のハスペル氏の宣誓式に出席し、「ハスペル氏以上に(長官に)ふさわしい人物はいない。素晴らしい仕事をするだろう」と期待を述べた。

 前任者のポンぺオ国務長官は、日々トランプ氏に重要情報を提供する中で信頼関係を築き、米朝首脳会談に向けての調整役を担うなど、存在感を示してきた。その後任となるハスペル氏が、今後、どのような役割を果たしていくか注目される。