米国を勇気づける「働くママ」 ダックワース上院議員


困難に諦めず再起

 現職米上院議員として初めて出産した民主党のタミー・ダックワース氏が先月、生後10日の次女を連れて議場入りし、大きな話題となった。イラク戦争で両足を失うという逆境を乗り越えて政治家になり、50歳で次女を出産した「働くママ」の姿が、多くの人々を勇気づけている。

イラクの戦場で両足失う
50歳で次女を出産

 子連れでの登院は、上院では初めてのことで、メディアからは「歴史的」と報じられた。上院ではその前日、ダックワース氏らの提案を受け、1歳以下の子供を連れて議場に入れるように全会一致で規則を変更していた。

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4月26日、次女を連れてポンぺオ米国務長官の指名承認の投票を行ったダックワース上院議員(UPI)

 先月19日、ダックワース氏は投票のため、車椅子に乗り、赤ちゃんを膝の上に抱いて議場に登場。同僚議員らから拍手で迎えられた。この様子をウォール・ストリート・ジャーナル紙やワシントン・ポスト紙は翌日の1面で報じた。

 ダックワース氏は陸軍の元兵士で、イラク戦争にヘリコプターのパイロットとして従軍した時に、撃墜されて重傷を負い、両足を失っていた。

 ダックワース氏は次女の出産前に、これまでの半生を振り返る文書を発表した。その中で、今の自分があるのは、能力が優れていたり、人並み以上の強さがあったからではなく、「困難に直面した時にどう対応してきたか」によると強調した。

 ダックワース氏は父親が米国人、母親がタイ人。米ジョージ・ワシントン大学で国際関係学の修士号を取得後、父と同じ軍隊の道に進んだ。人生は充実し、明るい未来を描いていたが、イラク戦争で重傷を負うことで一変した。負傷によって激しい体の痛みのほか、怒りや不安も感じる苦しい日々を送ることになった。

 一方で、イラクの戦場で危険を顧みず助けてくれた仲間たちによって「第二の人生」を与えられたと感謝。「いかに周りの人に支えられているか気付き、彼らを決して失望させず、毎日彼らに報いるために生きよう」と決意したという。

 2006年に初めて出馬した下院選で落選したが、諦めれば「イラクの戦場で救ってくれた人たちを裏切ることになる」と再起。12年の下院選に勝利し、タイ系女性で初の下院議員となった。16年には上院選で当選した。

 高齢での妊娠・出産は、容易でなかった。シカゴ・サンタイムズ紙によると、ダックワース氏は夫と共に、さまざまな受精方法を試みる中、14年に第1子は体外受精で出産。その後、16年の上院選の期間中には流産を経験したが、今回、2人目の子供を授かった。

 「第二の人生で最高の出来事は、ずっと待ち望んできた家族を築けたことだ」。ダックワース氏は、こう述べている。

(ワシントン山崎洋介)