トランプ米大統領の「月着陸の宇宙計画」に期待を寄せるNW日本版
◆月面下に水の存在?
米国のトランプ大統領は昨年12月、米航空宇宙局(NASA)に対し、将来の火星探査に向け宇宙飛行士を再び月に着陸させることを命じる大統領令を発令した。同計画について「これは将来を鼓舞し、宇宙における米国の誇り高い使命の復活に向けた大きな一歩だ」「宇宙は軍事面も含め非常に多くの応用と関係しており、米国はリーダーであり続ける」と大統領。国威発揚と軍事的応用という大国の宇宙開発の思惑をストレートに語った。
それを受けてニューズウィーク日本版4月10日付は「月面地下にある? 水の迷宮を探せ」と題した記事を載せ「NASAの最優先課題の1つとなるのが、月の地下にあるかもしれない水を探し出すことだ」と断じている。
「宇宙飛行士にとって、水は生き延びるために必要不可欠なもの。現状では地球から運ぶしかないが、『現地調達』が可能になればコスト的にも効率的にもメリットは計り知れない。さらに水を電気分解すれば、地球へ戻る際のロケットの推進剤や燃料電池に利用することもできる」と。本当にそんなことが可能なのか、実現すれば、火星探査の拠点つくりも夢ではなくなる。
月下の水の可能性が言われるようになったのは、日本の月探査機「かぐや」が撮影した2009年の画像データの分析による「縦孔(縦穴)」の発見が端緒。この縦穴は地下の空洞の“天窓”とみられ、その空洞に氷が横たわっているのではないかと推測されている。「現在注目されているのは、NASAの月探査機が18年1月、北極近くで発見した3つの縦穴」で「これまでも月面では、似たような縦孔が既に200個以上確認されている」という。
◆月探査は新しい段階
世界の宇宙開発の歴史は、戦後の米国と旧ソ連の軍事部門のつばぜり合いのそれと重なり、冷戦下、国家的プロジェクトとして弾道ミサイルや人工衛星など軍事的利用が可能な技術開発が競われた。月探査ではソ連が先行していたが、米国は1961年から72年まで実施されたアポロ計画で、初の有人月面着陸に成功し面目を一新した。
トランプ大統領が今回「宇宙における米国の誇り高い使命の復活」と言うのは、この時の栄光を見据えているのである。月の内部探査という今日の実践的な月面開発の試みは、人類にとって宇宙開発の新しい局面である。
直近の具体的な目標は水の発見、その応用ということになるが、将来、宇宙において米国、中国、ロシアなどの間で勃発するかもしれない“水戦争”に対して、先手を打つべきだ―記事ではこういう直截(ちょくせつ)的な表現は避けているが、その可能性を見据えながら全体として同計画を評価している。
さらに溶岩チューブ(空洞部分)の探索法についても言及し「溶岩チューブをさらに詳しく探索するには、起伏のある地形に不向きな従来の月面探査機ではなく、小型ドローンが最適だ」という専門家の提案を紹介している。「ただし大気のない月ではプロペラを使えないため、小型ロケットエンジンを搭載する必要があるかもしれない。水を発見できれば、ドローンの燃料にも生かせるだろう」と。
誌面には、NASAの月探査機が観測した月の北極域とその拡大写真を掲載。今回、水の存在の可能性が高いとみられる縦穴の付近で、北極近くにある大きなクレーター「フィロラオス」などが鮮明に映っている。
◆海底探査で一日の長
一方、独自の有人ロケットを持たない日本は、米国の探査計画などに参加して、月や火星の有人探査を目指すことを決めている。
日本は宇宙開発において後塵(こうじん)を拝するが、地球の深海探査の技術開発においては一日の長がある。宇宙空間とともに謎の多い海底は、21世紀のフロンティアだ。海底資源が世界的に注目される中、米中をはじめ、ロシア、インド、オーストラリアなどに大きな関心を持たれている。
海洋立国を目指すわが国には、海底での地殻変動の研究や資源探査が欠かせない。深海探査活動は宇宙開発に比べ、その重要度は勝るとも劣らない。いわば外に目が向くか、地球の内部に目が向くか、の違いだ。そのことを強調しておきたい。
(片上晴彦)





