キング牧師暗殺50年と黒人社会 深刻な家庭崩壊・暴力

インタビューfocus

米ジョージ・メイソン大学特別教授 ウォルター・ウィリアムズ氏に聞く

差別は主要問題に非ず

 米公民権運動の黒人指導者マーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺から4日で50年を迎えたが、人種差別は依然、米社会の深刻な問題であるとの見方が支配的だ。黒人の立場からこれに異を唱えるウォルター・ウィリアムズ米ジョージ・メイソン大学特別教授は、世界日報のインタビューで、黒人が今日直面する家庭崩壊や凶悪犯罪、低い学力などの問題は「人種差別とは関係がない」と断じ、黒人自身の責任であるとの見方を示した。(聞き手=編集委員・早川俊行)

人種差別は今なお米社会の大きな問題だと思うか。

ウォルター・ウィリアムズ氏

 ウォルター・E・ウィリアムズ氏 1936年、米フィラデルフィア生まれ。カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)で修士、博士号を取得。80年からジョージ・メイソン大学経済学部教授。保守派コラムニストとして活発な言論活動を続ける。

 思わない。黒人はかつて、憲法上の保障を受けていなかったが、公民権をめぐる戦いは終わった。勝利したのだ。

 黒人が直面する大きな問題はもう存在しない、という意味ではない。だが、黒人が今日抱える問題は、公民権の問題とは関係がない。

 例えば、黒人が直面する大きな問題の一つは、婚外子率の高さだ。黒人の子供の75%が婚外子として生まれている。これは人種差別によって引き起こされたものではない。

 また、(黒人が多く住む)一部の都市では、凶悪犯罪率が高い。シカゴでは昨年、600人以上が殺された。だが、これも人種差別とは無関係だ。なぜなら、そのほとんどが黒人が黒人を殺害した事件だからだ。

 多くの黒人が受けているひどい教育も、人種差別とは関係ない。教育の質が低い都市は、市長、教育長、校長、教員が黒人だ。お粗末な教育を人種差別のせいにはできない。

 人種差別は存在しないと言っているのではない。過去のように黒人が直面する主要な問題ではない、ということだ。

全米に拡大した、警官による黒人射殺への抗議運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」(BLM)をどう見る。

 毎年、約7000人の黒人が殺されているが、このうち職務中の警官に射殺された割合はごくわずかだ。BLM運動は、大半が黒人に殺されている事実ではなく、警官による射殺だけに焦点を当てている。

米国には構造的な人種差別が存在し、黒人はその犠牲者だという主張がある。

 ナンセンスな主張だ。私は2011年に書いた「人種と経済学」という本で、米国の黒人を一つの国家と仮定した場合、08年の統計でその国内総生産(GDP)は世界18位の国家に相当すると指摘した。米国の黒人は、ポーランドやベルギー、スイス、スウェーデンより裕福ということになる。

 これは目覚ましい進展だ。1865年に南北戦争で黒人奴隷が解放された時、1世紀余りで黒人の地位がここまで向上するとは誰が想像しただろうか。

 米国の黒人の中には、世界の大富豪、著名人になった者もいる。黒人のコリン・パウエル氏は、世界最強の米軍のトップに立った。これらは黒人が成し遂げた進歩や払ってきた犠牲を物語るものだ。このような進展は、米国だからこそ可能だった。他の国では不可能だっただろう。

オバマ政権で人種関係悪化

オバマ氏が黒人初の米大統領に就任した時、人種問題は改善されると期待された。

 オバマ政権時代、国民の間の人種的関係は逆に悪化した。多民族社会は根本的に不安定だ。多民族社会の安定を維持する唯一の方法は、できるだけ小さな政府を保ち、人種に基づいて決定を下さないことだ。だが、オバマ氏は多くの物事を人種に基づいて決めた。

リベラル勢力は、トランプ米大統領を人種差別主義者と呼ぶが、同意するか。

 しない。彼らは同意できないことがあると、その人物を人種差別主義者と呼んで批判する。

 トランプ氏が(アフリカ諸国やハイチなどを指し)「そんな便所のような国の連中を、なぜ受け入れるか」と述べたことは、配慮に欠け、別の言い方をすべきだった。だが、この発言は、米国が対応すべき問題を提起している。

 ノルウェーやフィンランドから米国に不法入国し、刑務所に入る者は一体何人いるか。ほとんどいない。米国で問題を起こし、刑務所を溢(あふ)れさせ、米国の福祉制度を圧迫しているのは、中南米やアフリカ、中東からやって来た人々だ。

トランプ氏は不法移民に厳しい対応を取っている。

 世界のすべての人に米国に住む権利があるわけではない。誰をどのような条件で入国させるかを決める権利は米国民にある。

 より良い生活を求めてやって来たとしても、米国に不法入国した者は、法律を破った犯罪者だ。善良な市民として生活していても、法律を破ったことに変わりはない。

 だが、これに同意しないのが左翼だ。不法移民を排除しようとするトランプ氏の考えを、左翼は攻撃的だとして反対している。