深まる「クリントン財団」疑惑

ロシアのウラン採掘企業買収で新証人

 ヒラリー・クリントン元米国務長官が家族で運営する慈善団体「クリントン財団」の便宜供与疑惑が、米国で再びクローズアップされている。ロシア国営企業が米国のウラン採掘権を持つ企業を買収した経緯に詳しい証人が出てきたほか、ジェフ・セッションズ司法長官が14日、特別検察官の任命を検討するよう部下に指示したと明らかにしたためだ。クリントン氏が財団に対する寄付の見返りとして買収を承認したことが事実なら、「米国の安全保障に重大な影響を与えた大スキャンダル」(米メディア)で、疑惑の解明を求める声が高まっている。(ワシントン・岩城喜之)

米司法長官が特別検察官任命を検討

 「クリントン財団」をめぐる不透明な取引で問題視されているのが、2010年にロシアの国営原子力企業「ロスアトム」がカナダのウラン採掘企業「ウラニウム・ワン」を買収した件だ。「ウラニウム・ワン」は米国のウラン採掘権を持っていたため、買収にはクリントン氏も国務長官として参加していた米政府の対米外国投資委員会(CFIUS)の承認が必要だった。

ヒラリー氏

2015年3月、「クリントン財団」の関連団体で演説するヒラリー・クリントン元米国務長官(左)=UPI

 それまでのクリントン氏は外国政府に米国の戦略的資産を売却することに批判的な立場だったが、この時はなぜか反対せず、買収は認められた。

 この後、「ウラニウム・ワン」の関係者からクリントン財団に少なくとも235万㌦(約2億6300万円)の寄付があったと分かったため、便宜供与疑惑が持ち上がった。

 こうした疑いはピーター・シュワイツァー氏が15年5月に著書『クリントン・キャッシュ』で取り上げたことでメディアから注目されるようになり、昨年の米大統領選でもクリントン財団をめぐる疑惑はたびたび指摘されていた。

 シュワイツァー氏によると、「ロスアトム」は原子力発電所だけでなく、核兵器の備蓄を管理するなどロシアの核・原子力政策の全般に関わっていたため、仮に寄付の見返りとして買収を承認したとすれば口利きや便宜供与という話ではなく、私腹を肥やすために国家の安全保障を損ねたことになる。

 クリントン氏は疑惑について「信用できる証拠はない」と否定しているが、セバスチャン・ゴルカ元大統領副補佐官はクリントン氏の行動を「国家に対する裏切りだ。1950年代に起きていたなら、反逆罪で裁かれていただろう」と主張。FOXニュースの番組で司会を務めるショーン・ハニティー氏も「『ウラニウム・ワン』は外国が関わった取引としては米史上最大のスキャンダルだ」と批判を強めている。

 一方、財団とロシアの関係についても徐々に明らかになっている。政治専門誌「ザ・ヒル」は先月、ロシアがクリントン氏に働き掛けていた経緯を知る情報提供者がオバマ前政権の方針で議会に明かされず、隠蔽(いんぺい)されていたことが分かったと報じた。

 こうした報道を受け、グッドラット下院司法委員長は特別検察官を任命するよう司法省に要請。セッションズ司法長官が特別検察官の任命を検討するよう指示した。

 これに対して民主党側は「疑惑はトランプ大統領への批判をかわすために主張しているにすぎない」と反論するが、ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、マーク・シーセン氏は同紙19日付(電子版)で、米国に流入するロシア政府関連の資金は公平に調査する必要があるとし、「クリントン氏の疑惑は捜査されるべきだ」と強調。ワシントン・タイムズ紙も「ウランをめぐる取引でクリントン氏が利益を得た代わりに米国の安全保障が損なわれたのか、国民は知る必要がある」とし、米連邦捜査局(FBI)などによる徹底的な調査を求めている。