トランプ現象の波紋、米で少数派差別が急増

勢いづく白人至上主義者や憎悪集団

 米国ではトランプ大統領が選挙期間中に連発した暴言の影響で、人種や宗教の少数派への差別が増加している。トランプ氏は少数派差別の拡大を望んでいないが、白人重視、移民やマイノリティー蔑視といったトランプ氏のイメージが拡大してしまったためだ。白人至上主義者やヘイト(憎悪)グループがトランプ氏が自分たちの願望をかなえてくれると勝手に思い込んでしまい、勢いづいている。(ワシントン・久保田秀明)

トランプ氏は歓迎せずも抑制は困難

 カリフォルニア州ロサンゼルスに住むアジア系米国人の女子大学院生と婚約者が2月中旬の連休に車で同州のスキーリゾート、ビッグベアに旅行する計画を立て、友人2人も計画に加わった。日本でも利用者が増えている米民宿仲介サイトのエアービーアンドビーで山小屋の宿舎を約1カ月前に予約。

トランプ氏

1月27日、ワシントン郊外の国防総省で、シリア難民受け入れ停止などを決めた大統領令に署名するトランプ米大統領(EPA=時事)

 いよいよ当日、4人は楽しい週末への期待に胸を膨らませ出発した。折からの吹雪で道路事情は最悪だったが、車で2時間の行程も楽しかった。山小屋の近くまで来た時、貸主からドタキャンのメッセージが届く。アジア人だというのがキャンセルの理由だった。4人が抗議しエアービーアンドビーにこのことを通報するぞと返信すると、「勝手にしろ。だからトランプがいるんだ。外国人の好きなようにはさせない」というメッセージが返ってきた。

 南部貧困法律センター(SPLC)によると、トランプ氏が大統領選に出馬表明した一昨年以来、米国におけるヘイトグループ(憎悪集団)の数が2年連続して急増しているという。確認されたヘイトグループの数は2014年には784集団あったが、2016年には917集団にまで増えた。SPLCは、この原因がトランプ氏の排他的米国第一主義、反移民発言の影響で、民族主義的、白人至上主義的な極右グループが活性化していることにあると分析している。

 SPLCによると、特に顕著なのが、反イスラム的ヘイトグループの急増で、一昨年には34グループが確認されていたが、昨年は101グループとほぼ3倍に増えた。それに伴い、米国内でイスラム教徒を標的にしたヘイトクライム(憎悪犯罪)が急増している。連邦捜査局(FBI)の最新統計によると、2015年に米国内のイスラム教徒を標的にしたヘイトクライムは67%も増加した。昨年11月8日にトランプ氏の大統領当選が確定して以降10日間で、全米で人種、宗教偏見に基づくヘイトクライムが867件発生したが、このうち300件以上は移民やイスラム教徒を標的にした事件だ。さらにトランプ氏当選後1カ月間に発生したヘイトクライムの3分の1以上が、トランプ氏の「米国を再び偉大にする」というスローガンや女性蔑視発言に触発されたものだった。

 このほか、白人至上主義のグループも活性化している。クー・クラックス・クラン(KKK)は、2014年から15年にかけて、72集団から190集団へと急増した。その後、整理統合が進んで現在130集団に落ち着いているが、ジョージア州など南部ではこれまでタブー視されてきたKKKの旗や南軍旗が公然と飾られる事例が増えている。

 トランプ氏はこうした現象を歓迎しているわけではない。2月28日の米議会上下両院合同会議での演説では、「最近起きたユダヤ教コミュニティーセンターへの脅迫やユダヤ人墓地の破壊、カンザスシティーでの(インド系移民を標的にした)銃撃事件」を強く非難した。

 トランプ氏は、白人至上主義者や極右民族主義者から同盟者とみられているスティーブ・バノン首席戦略官・上級顧問の影響力を制限する動きを強めている。ただ、トランプ氏はイスラム教徒や移民を排斥するような過激な暴言でパンドラの箱を開けてしまった。一連の暴言で形作られたトランプ・イメージは本人の意向とは関係なく独り歩きし始めている。パンドラの箱から出て活動し始めた白人至上主義者や過激主義者の活動を今になって抑制するのは、至難の業だ。