反ユダヤ犯罪への米国の対応に及び腰の政府を非難するイスラエル紙
◆非難控える米に反発
米国でユダヤ人墓地が破壊されたり、ユダヤ人コミュニティーセンターが爆破の脅迫を受けたりする事件が相次いでいることが、改善が期待されている米国とイスラエルの関係にも影を落としている。一方でトランプ大統領は、ユダヤ人を中傷、迫害する事件の増加に対して毅然(きぜん)とした態度を取っていないと非難の声が、米国内、イスラエルのメディアから出ている。
米国内での反ユダヤ的な犯罪は昨年の大統領選から増加している。今年に入ってからもユダヤ教施設への爆破の脅迫が100件近く、ユダヤ人墓地の墓石が破壊されるなどの事件も起き、米国人のユダヤコミュニティーは警戒を強めている。ユダヤ系の米人権団体「反中傷連盟(ADL)」によると、米国内での反ユダヤ的な発言がこれほどまでに増えたのは1930年代以来初めてという。
トランプ大統領は選挙戦中から親イスラエルの姿勢を示し、2月15日のネタニヤフ首相とのワシントンでの会談でも、親密ぶりを見せた。だが、その一方で、ユダヤ教徒を狙った犯罪に対する非難は控えてきた。そのことが、イスラエルのユダヤ人指導者の間で、トランプ政権への反発を招いている。
このユダヤ人の反トランプ感情をいっそう高めたのは、ネタニヤフ首相訪米時の会見でのトランプ氏の対応だ。反ユダヤ犯罪の増加をめぐるユダヤ人記者の質問に二度にわたって答えなかったためだ。
一度は、質問をはぐらかし、翌日には、質問を途中で遮り、「私は反ユダヤではない。…差別主義者でもない」と訴えた上で、「大変な侮辱だ」とやり返した。
◆大統領やゆする米紙
反トランプ大統領の急先鋒(せんぽう)、米紙ニューヨーク・タイムズは2月16日付電子版の社説で、さっそくこれにかみつき「頭がショートしたのか」といつもの調子でやゆした。
同紙は「普通の米国の政治家なら、ホームランの絶好のチャンスだ。(ユダヤ教徒への攻撃を)非難し、阻止するためにあらゆる手を尽くすと約束する」と反ユダヤ犯罪への直接的な非難、対策を口にしないトランプ氏を批判した上で、「大統領選後、憎悪犯罪、悪意のあるスピーチが増加したのは確かであり、その中でもユダヤ人は主要な標的になっている」と反ユダヤ犯罪が増加している現状を指摘した。
ところが、トランプ氏は2月28日の連邦議会での初演説で、「最近のユダヤ人コミュニティーセンターに対する脅迫とユダヤ人墓地の破壊行為、カンザスシティーでの先週の銃撃事件を受け、…あらゆる極めて醜い形態の憎しみと悪を非難するという点では団結した国だということを、私たちは思い起こす」と、持って回った言い方ながら、反ユダヤ犯罪に対しこれまでにない踏み込んだ発言をした。
◆議会での演説は評価
ユダヤ系ニュースサイト「ジューイッシュ・テレグラフィック・エージェンシー」によると、改革派ユダヤ教連合のラビ、リック・ジェイコブ師はツイッターで、トランプ氏のこの発言を「力強い」と歓迎、「重要なのは、調査し、テロのうねりを終わらせることだ」と今後の対応に期待を表明した。
またADLのジョナサン・グリーンブラット会長は謝意を表明した上で、「一緒に戦おう」と憎悪犯罪への取り組みで協力を訴えた。
イスラエル紙エルサレム・ポストも3日付電子版の社説で「明らかな改善」と評価した。
一方で同紙はイスラエル政府のトランプ政権への対応に不満を表明した。「イスラエルと米国のユダヤ人はトランプ氏に媚(こ)び、言い訳ばかりしている。イラン核合意やユダヤ・サマリア(ヨルダン川西岸)の入植政策でのトランプ氏の主張がその原因だ」と指摘、イスラエル支持の姿勢を示すトランプ大統領の機嫌を損ねたくないがために、トランプ政権に対して強い姿勢が取れていないと主張した。
同紙は「ネタニヤフ首相、イスラエル指導者らが、トランプ氏と良好な関係を続けたいというのは理解できる」とした上で、「それでも、反ユダヤ主義や、少数派に対する憎悪犯罪と戦うための措置をトランプ政権に求める米ユダヤ教指導者らの声を支援するのを怠ってはならない」とイスラエル政府に注文を付けた。
選挙戦中からメディア嫌いで知られたトランプ氏だが、憎悪犯罪の抑制へメディアの使命は重要だ。
(本田隆文)