過去1世紀で10億超、世界の中絶件数-米報告書
累計1位中国、日本は5位
過去1世紀の間に世界100カ国・地域で中絶された胎児の数は計10億以上――。米国の民間団体が最近発表した報告書でこのような実態が明らかになった。1920年に旧ソ連が世界で初めて人工妊娠中絶を合法化して以来、世界各国で中絶が爆発的に増加。累計件数が最も多いのが、「一人っ子政策」の下で強制中絶が行われてきた中国で、日本も5位と上位を占めた。
各国の中絶件数をまとめた「中絶世界報告書」を発表したのは、米民間団体「グローバル・ライフ・キャンペーン(GLC)」。信頼できるデータが得られる100の国と地域を選び、1921年から2015年までに行われた中絶件数を合計したところ、10億1843万5000件と10億の大台を突破したことが判明した。
報告書によると、旧ソ連が1920年に中絶を合法化するまでは、ほとんどの国が中絶を禁止、または母体を保護する場合に限定していた。だが、その後、世界の潮流は「中絶容認」に一転し、現在までに142カ国が合法化した。
累計中絶件数が際立って多いのは現・元共産主義国で、トップの中国では3億8275万の胎児が堕ろされた。2位のロシアは2億1626万件で、これは現在の人口の1・5倍に相当する数だ。
米国は連邦最高裁が女性の妊娠中絶権を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を境に急激に増加。累計中絶件数は5783万件で第3位だ。
アジアでは中国以外にも、日本が5位、ベトナムが6位、インドが7位、韓国が9位、カザフスタンが10位と、上位10カ国中6カ国を占めている。また、強制中絶が今も行われているのは、中国と北朝鮮のアジア2カ国だけだ。
報告書を作成したGLCのトーマス・ジェイコブソン事務局長は「アジアは世界で最も胎児に残酷な地域だ」と指摘。また、中国やインドなどは中絶件数を完全に報告しておらず、実際はもっと多い可能性が高いという。
日本では戦後、連合国軍総司令部(GHQ)占領下の1948年に優生保護法の施行で中絶が合法化され、急速に増加していった。
25日にワシントン市内で行われた報告書の発表イベントに同席した米中絶反対派団体「シャーロット・ロージアー研究所」のチャック・ドノバン所長は「米国は第2次世界大戦後、日本の国力を削(そ)ぐ方法として、合法的な中絶の導入に大きな影響を及ぼした」と指摘した。
ドノバン氏はさらに、産児制限運動の提唱者マーガレット・サンガー氏が設立した「全米家族計画連盟」がトルーマン、アイゼンハワー両大統領に影響を与えた結果、他国に人口抑制を促すことが米政府の基本政策となったとし、中絶の世界的な増加は「米国に大きな責任がある」と批判した。
ジェイコブソン氏は、全世界で10億件を超えた中絶を「史上最悪のジェノサイド(大量虐殺)」と表し、生命の尊厳を守る国際的な運動が必要だと主張した。
(ワシントン早川俊行)