選挙後も続く反トランプ「偏向報道」

 米大統領選では、主要メディアの多くがドナルド・トランプ氏に厳しい批判を浴びせ続けた。一方の候補だけを非難する「不公平な報道」(ワシントン・タイムズ紙)は、トランプ氏が当選してからも毎日のように続いている。ただ、こうした偏向報道は皮肉にも、米国民の既存メディアへの不信感をいっそう増幅させる結果につながっている。(ワシントン・岩城喜之)

オバマ氏の当選時には称賛の嵐
既存メディア離れに拍車

 「米近代史上、最悪な主要政党候補」「トランプ氏は大統領執務室に入る価値がない」

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トランプ次期米大統領=1日、オハイオ州シンシナティ(EPA=時事)

 これはトランプ氏がヒラリー・クリントン前国務長官と大統領選を争っていた当時、ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙などが浴びせた批判記事の一部だ。

 こうした報道が多くの主要メディアで毎日のように溢(あふ)れていたことから、トランプ陣営の広報官を務めていたジェイソン・ミラー氏は「私たちは米政治史上、最大ともいえるメディアの共同攻撃を受けている」と述べ、強い不快感を示していた。

 マスコミの「偏向」は数字にも表れていた。メディア監視団体「メディア・リサーチ・センター」(MRC)が三大ネットワークのABC、CBS、NBC各テレビ局で7月末~10月中旬に報道された夕方のニュース番組を調査した結果、トランプ氏に関する報道の91%が否定的な内容だった。

 米国では新政権発足後100日間は大統領とメディアの良好な関係が続く「ハネムーン期間」といわれているが、トランプ氏の当選後も批判的な報道はニューヨーク・タイムズ紙を筆頭にほとんど変わっていない。

 特に新政権の首席戦略官・上級顧問にスティーブン・バノン氏の名前が浮上した直後から、批判的な報道はさらに増えていった。

 MRCが大統領選後の先月13日夜~16日朝まで三大ネットワークで報道されたバノン氏に関する内容を調査したところ、74%が「ネガティブ(否定的)」なものだった。

 同時期に、次の民主党全国委員長として「(イスラム組織)ムスリム同胞団とのつながりも指摘されている」(MRC)というキース・エリソン下院議員の名前が取り沙汰されたが、MRCの調査では同氏に対する否定的な報道はゼロだった。

 トランプ氏への批判的な報道は、政権移行チームに関しても多くみられる。米誌「タイム」は、移行チームの責任者がクリス・クリスティー・ニュージャージー州知事からマイク・ペンス次期副大統領に変わったことについて「無秩序状態」だと表現。ニューヨーク・タイムズ紙も「混乱している」と報道した。

 一方、2008年にオバマ氏が大統領選に当選した後のメディア報道は称賛の嵐だった。

 MRCによると、オバマ氏の政権移行チームや組閣について、多くの米メディアは「天才集団」(ABCテレビ)、「素晴らしい人選だ」(ニューズ・ウィーク誌)などと褒めちぎった。NBCテレビのトーク番組で司会を務める政治評論家のクリス・マシューズ氏は「(オバマ)新大統領の業績のために、できる限りのことをしたい」とまで言い切っていた。

 ただ、こうしたダブルスタンダード(二重基準)ともいえる偏向は、米国民の既存メディア離れに拍車を掛けている。

 大手調査会社ギャラップが9月7日~11日に行った世論調査によると「新聞やテレビ、ラジオといったマスメディアがニュースを正確、公正に報じている」と考える割合はわずか32%だった。これは昨年の40%から8ポイントも下落し、同社が1972年から行ってきた調査の中で最低の数字だ。

 ギャラップは、トランプ氏への批判的な報道が毎日繰り返されたことが、「もともと低かった米メディアの信頼がさらに低下した最大の理由だ」としている。

 トランプ氏に対する記者の偏向をうかがわせる内容は、違った側面からも垣間見える。

 コロンビア大学が発行するジャーナリズム専門誌「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」によると、記者活動を行っている人によるトランプ、クリントン両陣営への政治献金額は計39万6000㌦(約4500万円)に上ったが、このうち約96%がクリントン陣営への献金だった。同誌は「クリントン氏はジャーナリストにとって好ましい候補者だったことがはっきりと示された」と指摘する。

 こうしたジャーナリストの偏向について、MRCのブレント・ボゼル所長は「リベラルメディアは、いつか米国の文化を社会主義へと導く権力として利用しようとするだろう。こうした報道はジャーナリズムではなく、もはやプロパガンダだ」と厳しく断罪する。