トランプ次期米大統領、外交・安保政策の大転換は?
米大統領選挙の共和党候補ドナルド・トランプ氏勝利は米国内、世界に衝撃を与えた。米国内の連日の抗議デモなどその衝撃の余韻が継続する中、トランプ氏は来年1月20日の就任に向けて、政権移行準備を進めている。その外交、安保政策はどうなっていくのか。(ワシントン・久保田秀明)
当選後、発言は柔軟に
TPP頓挫で中国主導も
トランプ氏は当選後、諸外国の首脳と相次いで電話協議した。一連の電話協議の内容について、同氏はほとんど言及していない。
選挙期間中の発言についてもコメントを最小限にとどめている。このため、米国の次期政権の政策はさまざまな臆測を呼び、不安と期待が国際的に広がっている。
外交、安保政策に関しては、トランプ氏は、米国が膨大な防衛費を負担しているのに、「同盟国は十分な対価を払っていない」と繰り返し批判した。
公平な対価を払わない国は、同盟国といえども関係を見直すという意味だ。オバマ大統領がアジアへの回帰政策の要として推進した環太平洋連携協定(TPP)も米国の雇用を奪うとして、離脱を主張してきた。このため、トランプ政権の特徴として、「孤立主義」「保護主義」という表現が飛び交う。
欧州からは「従来の西側同盟の終焉(しゅうえん)」(カール・ビルト・スウェーデン元首相)という絶望的言葉さえ聞こえてくる。
トランプ氏がどういう外交・安全保障政策を打ち出すかは、米欧同盟だけでなく、「1918年に始まった米国の100年近くにわたるグローバルなリーダーシップ」(ジャクソン・ディール・ワシントンポスト論説副部長)に米国が終止符を打つかどうかを決めるという。
トランプ政権の誕生は、孤立主義、保護貿易主義の復活、伝統的西側同盟の終焉、その盟主としての米国のリーダーシップの終わりを意味するのだろうか。
トランプ氏の当選後の言動はかなり違う方向性を示唆している。
トランプ氏は11月9日の勝利宣言で、「全ての米国民のための大統領になる」と明言し、「米国と進んでいい関係を築こうとする国々と協力していく」と呼び掛けた。
同氏は13日放映されたCBSテレビとのインタビューでも、「私は分別のある人間だ。マスコミは私を野蛮な人間にしたがるが、実際はそうではない」と述べ、選挙戦でのレトリックと大統領としての政策を明確に区別している。
同氏が小出しに表明している国内政策は、選挙期間中の暴言とは微妙に違う。医療保険制度改革法(オバマケア)は廃止を主張していたが、一部の内容は維持し法の修正で対処すると言い始めている。米メキシコ国境沿いの「壁」建造も既存のフェンスで代用し、国境管理を強化する。「壁」は建造しないかもしれない。米国内の1100万人の不法移民全員の強制送還の発言はおそらく実行しないことになるだろう。強制送還の対象になるのは「犯罪者か犯罪歴のある人物、ギャングや麻薬密売人ら200万人から300万人」だけだ。
トランプ氏の当選後に行ったメキシコのペニャニエト大統領との電話協議でも、「未来のために信頼関係を築くことで一致した」。国境に壁を建造し、建造費をメキシコに払わせるという強硬発言とは全然トーンが違う。
国内政策でトランプ氏の態度が選挙期間中の発言と大きく変化しているとすれば、外交、安保でも柔軟な変化があり得るのではないか。
トランプ氏が当選後、日韓の首脳と行った電話協議では、「日米関係は卓越したパートナーシップであり、この特別な関係をさらに強化してゆきたい」「米国は韓国を防衛する強力な体制を維持する」と同盟関係へのコミットメントを表明した。これらの発言は、過去の米大統領の日本、韓国への姿勢と大差ない。
安倍首相は17日、首脳としては最初にニューヨークでトランプ氏と会談した。会談の中身については一切コメントを控えたものの、「信頼できる指導者だと確信した」と同氏を高く評価し、日米同盟深化の方向性で同意したことを示唆している。
TPPにしても、単なる経済問題では片付けられない。署名12カ国の国内総生産(GDP)合計の6割を占める米国が批准しなければ、TPPは頓挫してしまう。
そうなると中国が東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の協議を加速させ、アジア太平洋地域の経済ルール作りを主導する結果になりかねない。トランプ氏といえどもそれは望まないはずだ。
トランプ氏はマイク・ペンス次期副大統領を中心に政権移行チームを組織し、補佐官、閣僚の人選を進めている。
その人選でトランプ外交の実像がより明確に浮かび上がることになろう。