米大統領にトランプ氏
予想覆しクリントン氏に逆転
今後4年間の米国の針路を決める大統領選は8日投開票が行われ、共和党のドナルド・トランプ氏(70)が激戦の末にヒラリー・クリントン前国務長官(69)を下し、当選を決めた。数々の暴言で物議を醸し続けてきたが、クリントン氏優勢としていた米メディアや政治評論家らの事前予想を覆す「大波乱」を起こした。共和党は8年ぶりの政権奪還で、行政・軍での職務経験がない人物が大統領に就任するのは初めてとなる。
共和党は上下両院でも過半数を維持したことで、トランプ氏がオバマ大統領の内政・外交路線の転換に動くのは確実だ。
トランプ氏は9日未明、ニューヨーク市マンハッタンにあるホテルで支持者を前に演説し、「今夜は歴史的な勝利だ」と強調。さらに「これからは団結する時だ。全ての米国民のための大統領になる」と語った。当選を祝福する電話をクリントン氏から受けたことも明かした。
昨年6月に出馬表明した当初は泡沫候補扱いもされたが、「既成政治」に反発する人や白人労働者を中心に支持を集め、「旋風」を巻き起こしてきた。本選では共和党の地盤である中西部や南部の諸州を押さえた上で、製造業などが衰退した「ラストベルト」(さび付いた工業地帯)と呼ばれるペンシルベニア州やオハイオ州などを狙う選挙戦を展開。過去のわいせつ発言が明るみに出て劣勢を強いられたが、米連邦捜査局(FBI)のコミー長官がクリントン氏の私用メール問題の捜査再開を議会に通知した10月末に流れが一変し、その勢いで大接戦を制した。
トランプ氏を支持しながらも、周りの批判を恐れてメディアの世論調査に回答しない「隠れトランプ票」が「大番狂わせ」(CNNテレビ)につながった可能性もある。クリントン氏はオバマ政権の継続と豊富な政治経験を訴えたが、信頼度の低さが影響し、及ばなかった。
米メディアによると、9日午前6時(日本時間同午後8時)の時点で、トランプ氏は計538人の選挙人のうち過半数(270人)を上回る289人を獲得した。
一方、孤立主義的な外交政策を掲げるトランプ氏の主張は共和党が目指す政策との違いも多く、党内から不安の声も上がる。政治手腕も未知数で、目玉政策である米メキシコ国境への壁建設や環太平洋連携協定(TPP)からの離脱などがどこまで実現できるか不透明だ。
また、大統領選の期間中に在日米軍駐留費用の負担増を求めたり、米軍撤退を示唆していたことから、今後の日米関係についても見通せない状況になった。過激派組織「イスラム国」の台頭や中国の海洋進出などに対して、どう対応するかも注目される。
トランプ氏は12月19日に行われる選挙人による形式的な投票を経て、来年1月20日に第45代大統領として正式に就任する。副大統領にはマイク・ペンス・インディアナ州知事(57)が就く。
(ワシントン岩城喜之)