米国民の26%「ブッシュ氏はスターリンより人殺し」

薄れる共産主義への知識と警戒感

 米国民の4人に1人は、旧ソ連の独裁者スターリンよりもブッシュ前米大統領の下で、より多くの人が殺されたと信じている――。米国で最近実施された世論調査で、こんな驚くべき結果が明らかになった。冷戦終結から四半世紀が経過し、米国で共産主義に対する基本的知識や警戒感が薄れている。民主党大統領候補指名争いで旋風を起こした自称・民主社会主義者バーニー・サンダース上院議員の影響もあり、若い世代で社会主義を支持する傾向が強まっている。(ワシントン・早川俊行)

社会主義を支持する若者
サンダース氏の影響色濃く

 世論調査は、共産主義の残虐性を後世に伝える活動を展開する米非営利組織「共産主義犠牲者追悼財団」が、インターネット調査会社YouGovに委託して実施され、16歳以上の2300人が回答した。

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2月9日、米ニューハンプシャー州コンコードで演説する民主党のバーニー・サンダース上院議員(AFP=時事)

 調査結果によると、共産主義について、70%が「今なお問題」、18%が「20世紀の問題」と回答した。だが、2000年以降に社会人になったミレニアル世代(21~34歳)に限ると、55%が「今なお問題」、27%が「20世紀の問題」と答えており、若い世代では共産主義を「過去の問題」と捉える傾向が強いことが分かった。

 共産主義を好ましくないと捉える割合は、ベビーブーマー世代(52~70歳)が87%、71歳以上の高齢者が95%と極めて高いのに対し、ミレニアル世代は62%、さらにその下のZ世代(16~20歳)は61%にとどまった。若い世代ほど共産主義に対する警戒感が薄いのが実情だ。

 米国ではアルゼンチン出身の革命家チェ・ゲバラが描かれたTシャツを着る若者がいるが、ミレニアル世代でゲバラに好感を抱く割合は37%に上った。また、34%がカール・マルクスに、25%がレーニンに、18%が毛沢東に好感を抱いている。

 共産主義の残虐な歴史に対する基本的知識の欠如も顕著で、旧ソ連スターリン体制下よりもブッシュ前米政権下でより多くの人が殺害されたという誤った認識を持つ米国民は26%に達した。若い世代ほどその傾向が強く、ミレニアル世代では32%に上った。

 また、スターリンよりもヒトラーの下でより多くの人が殺害されたという誤った認識を持つ人は、68%に達した。

 共産主義体制の犠牲者は全世界で1億人を超えると推定される。「共産主義はどのくらいの人を殺害したと思うか」との質問に対し、「1億人以上」と回答したのは25%にとどまった。一番多かった回答は「100万~2500万人」の28%で、最も少ない「100万人以下」も8%あった。

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 民主党大統領候補指名争いで、サンダース上院議員が若者の支持を集めて旋風を巻き起こしたが、ミレニアル世代でサンダース氏に好感を抱く割合は70%、Z世代では76%に上った。

 サンダース氏の影響で若者の間で社会主義を支持する傾向が強まっており、ミレニアル世代の46%、Z世代の45%が社会主義者を自任する大統領候補に投票すると回答。共産主義者を自任する大統領候補に投票するとの回答も、ミレニアル世代で17%、Z世代で21%あった。

 経済格差への不満から資本主義に対する否定的な見方が広がっており、資本主義に好感を抱く割合は50%、特にミレニアル世代では42%にとどまった。高所得者は公平な負担をしていないとの回答は67%に達し、その中の40%が「経済システムの完全な変革」が必要と答えた。「完全な変革」が具体的に何を意味するかは不明だが、社会主義革命を支持している印象さえ受ける。

 保守派コラムニストのカル・トーマス氏は、この世論調査結果について、「リベラル派のプロパガンダの大勝利」であり、「すべての思想を平等に扱う公教育制度の産物だ」と指摘。「人が善悪の判断基準を失い、何でもありの状態になる時、社会主義や共産主義にも他の多くの組織化原理と同等の価値が置かれるようになる」と、社会主義・共産主義を間違った思想とはっきり区別しない公教育や社会の風潮に警鐘を鳴らした。

 調査を実施した共産主義犠牲者追悼財団のマリオン・スミス事務局長は「財団設立以来、新世代が集産主義システムとその暗黒の歴史をよく理解していないことに懸念を抱いてきたが、調査結果は残念ながらこれを認めるものだ」と強調。「調査結果は、社会主義思想の危険性を若者に教える必要性を明確に示している。これに対処するカリキュラムを構築するために、教育関係者との協力を継続していく」と話している。