コロンビア和平合意へ導いたローマ法王

「長年の流血と痛み」訴え

 コロンビアの半世紀続いた内戦が終わりを迎えようとしている。硬直化していた政府と左翼ゲリラの交渉を変える大きなきっかけの一つとなったのが、南米アルゼンチン出身のフランシスコ法王による強い「平和へのメッセージ」だった。
(サンパウロ・綾村 悟)

交渉行き詰まり打開の契機に
さらに険しい社会再建の道

 「世界最長の内戦」と呼ばれ、半世紀以上にわたって多くの犠牲者を出してきた南米コロンビアの内戦が、先月24日、コロンビア政府と同国最大の左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)の間で最終的な和平合意に達したことを受け、終息へと向かいつつある。

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昨年9月20日、ハバナで、握手するフランシスコ・ローマ法王(左)とキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長(AFP=時事)

 1960年代から始まったコロンビア内戦の歴史では、幾度となく和平交渉の機会が持たれたが、いずれも失敗に終わってきた。麻薬密売や誘拐を主な資金源とする左翼ゲリラは、その豊富な資金力で一時は政府軍をも圧倒、国土の3分の1以上をその支配下に置いたこともある。

 左翼ゲリラは、大統領候補さえも誘拐して社会不安を増大させた。牧場の自営組織から発展した右派民兵組織(パラミリタリー)をも巻き込み「左翼ゲリラ、右派民兵組織、政府軍」の三つどもえの内戦は、コロンビアの社会と経済を深くむしばんできた。

 その内戦の歴史に和平実現の道筋をつくったのが、現職のサントス大統領だ。サントス氏は、対ゲリラ強硬派として鳴らしたウリベ前政権下で国防大臣に抜擢(ばってき)され、米国の支援を受けた国軍強化とゲリラ掃討作戦を通じて左翼ゲリラの弱体化に尽力した。

 サントス氏は、ウリベ前大統領の後継者として2010年に大統領に就任すると、ゲリラ掃討を継続する一方で、12年11月にノルウェーやキューバなどを仲介役としたFARCとの和平交渉開始に合意した。和平交渉は、最初の第1回がノルウェーで開催された後は、一貫してキューバの首都ハバナで行われている。

 12年当時には、大きく話題となったコロンビア和平交渉だが、交渉は土地解放問題やゲリラの処罰、政治参加などをめぐって長期化、国内の強硬派からの圧力もある中で交渉は平行線をたどり、和平交渉の硬直化が懸念されていた。

 こうした状況下で、フランシスコ法王は昨年9月、訪問先のキューバの首都ハバナの革命広場で執り行ったミサにおいて、「(コロンビア和平交渉の)失敗は決して許されない」という非常に強いメッセージを発した。ハバナの革命広場は、キューバのカストロ前議長が、幾度となく共産党一党独裁国家のキューバの団結と米国批判を訴えた場所として有名だ。

 フランシスコ法王は、コロンビアで「多くの無実な人々の血が流され」「長きにわたる暴力と痛みに人々が苦しんだ」ことに言及、人々が流した血と痛みが和平と和解につながるように求めた。

 法王のメッセージが世界に伝わると、その直後にサントス大統領とFARCのマルケス司令官がツイッターを通じて声明を発表、双方が法王のメッセージに謝意を述べると同時に「平和な社会の実現に努力する」と約束した。

 サントス大統領は、その後、キューバで行われている和平交渉に初めて参加し、コロンビア首脳とFARC最高幹部との直接交渉を通じて、昨年の9月末に歴史的とも言える和平締結への合意を取り付けた。サントス大統領の和平交渉参加は当初の予定になかったもので、フランシスコ法王のメッセージ後に急遽(きゅうきょ)決まったものだ。

 法王のメッセージ以前にも、FARC側は、公開書簡などを通じて法王やバチカンに和平の仲介を求めていた。コロンビア和平の背景には、現地カトリック教会による長年にわたる和平に向けた尽力があったという。コロンビアのカトリック教会も、内戦の中で100人近い聖職者等教会関係者の犠牲を出している。

 コロンビアの和平合意は、来月2日に予定されている国民投票で合意の是非が問われることになっており、国民投票後に正式な和平合意の調印が政府とゲリラ代表の間で交わされる予定だ。

 ウリベ前大統領をはじめとする和平合意反対派は、合意内容がゲリラ側に有利だと批判、国民投票で反対票を投じるように呼び掛けている。今回の和平合意では、左翼ゲリラによる政党の国会議席が確保されることも盛り込まれており、人権侵害を犯したゲリラへの処罰も含めて国内には批判も少なくない。

 一方、フランシスコ法王は、和平合意の調印が実現すれば、来年の「できる限り早い時期」(バチカン当局)にコロンビアを訪問する予定だという。コロンビアのカストロ大司教は今月初め、和平案の最終合意を受けて「戦争は終わったが、平和を築く道のりははるかに厳しい」と語った。フランシスコ法王のコロンビア訪問が揺るぎない社会再建のきっかけとなることが望まれている。