ルセフ氏罷免、前途多難のブラジル経済改革
ブラジルで「政府会計を不正操作した」として5月から職務停止中だった左派の労働党政権のルセフ大統領が弾劾裁判で罷免された。
貧困対策や手厚い労働者保護を重視してきたルセフ氏は、経済悪化の責任を問われる形で政権から追放されたわけだ。
近隣諸国から抗議の声
課題は重い。何よりも、政治の混乱を収拾し、苦境にある経済をいかに回復するかだが、政権内の汚職などへの世論の反発は強い。それにルセフ氏の支持派は弾劾裁判に抗議するデモを繰り広げており、その一部は暴徒化して警察と衝突するなど治安の悪化が懸念される。
しかもルセフ氏自身は「私は(政界に)すぐに戻ってくる」と支持派に訴えた。ブラジルの法律では罷免された大統領は8年間、公職から追放される規定だが、上院はこの決まりを改め、罷免とは別に公職追放の是非を問う採択を行うことにした。その結果、可決に必要な票数に届かず、ルセフ氏は公職追放を免れ、復帰のチャンスを与えられている。ブラジル政界は時限爆弾を抱えた形であり、政争は長引きそうだ。
問題は、近隣諸国からも大統領罷免に抗議の声が上がっていることだ。労働党政権と良好な関係にあったベネズエラ、ボリビア、エクアドルなど左派政権の各国は一斉に罷免を批判し、ブラジルから大使を召還する考えを示した。外交面でも、ブラジルのテメル新政権は苦境に陥ったと言える。
テメル大統領が直面している最も困難な課題は景気回復だ。同政権は経済再生に向けて財政規律の重視を掲げ、社会保障改革に取り組もうとしている。しかし環境は厳しい。
原因は資源価格の下落だ。ブラジルへの投資や国内の消費は大幅に落ち込み、4~6月期の国内総生産(GDP)は前年同期比で3・8%減。9四半期連続のマイナス成長となり、資源頼みのブラジル経済の弱点を露呈した。
ブラジルを含む南米諸国は1980~90年代にかけ、米国型の市場経済を導入し、民営化や規制緩和を進めてきた。その結果、貧富の格差が拡大し、社会の不安定化を招いた。このため、手厚い社会保障で弱者を救済する労働党などの左派政権が相次いで誕生した。
ルラ大統領(当時)が就任した翌年の2004年には、南米諸国連合(UNASUR)の前身となる南米共同体が創設された。南米と北米の「南北間」が主流だった貿易体制から、南米国同士の「南南協力」に重点を置くようになり、「反米」の旗印の下に南米の左派政権が連帯する風土も育まれた。
だが、バラマキ政策による財政悪化や独裁色を強める長期政権への反発が「左派離れ」を招いている。15年12月にアルゼンチンでは右派へと政権が交代し、ベネズエラでは右派の野党が国会で過半数を獲得した。
支持伸びぬテメル新政権
こうした中、ブラジルで今回の労働党政権退陣があった。しかし、テメル政権への支持率は高くない。同政権が進めようとしている改革への世論の反発は強く、前途は多難と言えよう。