福祉拡大が「結婚離れ」の一因に、米研究機関が報告書
「結婚罰」に直面する低中所得層
家庭を強化する制度が必要
米国で進む「結婚離れ」の背景として、政府の社会福祉政策の影響が指摘されている。米民間研究機関は、結婚して世帯の総所得が増えると福祉手当がカットされる「結婚ペナルティー」が、子供がいても結婚しないカップルを増やす一因になっているとする報告書を発表した。本来、脆弱(ぜいじゃく)な家庭を支援するための福祉制度が、皮肉にも家庭の基盤を不安定化させている側面があるというのだ。報告書は、結婚を促し、家庭を強化する方向に福祉制度を改革すべきだと提言している。(ワシントン・早川俊行)
リンドン・ジョンソン大統領が「偉大な社会」を打ち出した1960年代以降、政府の福祉制度は大幅に拡大。子供のいる貧困家庭に現金を給付する制度が拡充されたほか、メディケイド(低所得者向け医療扶助)やフードスタンプ(低所得者向け食料購入補助)が新たに制度化された。
過去半世紀、福祉制度・予算は拡大を続け、それに伴い、受給世帯も大幅に拡大。今では貧困層だけでなく低中所得層も福祉手当を受給するのが一般的になっている。
問題は、福祉の拡大が顕著な傾向となっている結婚率の低下を助長している可能性があることだ。福祉手当の受給資格は世帯の収入額によって決まるため、結婚して世帯の総所得が増えると受給資格を失う場合がある。これがいわゆる「結婚ペナルティー」だ。
福祉手当が生活に欠かせない場合、子供がいても結婚しないことを選択するカップルがいても全く不思議ではない。結婚離れは経済や文化の変化など複合的要因によるものだが、「結婚ペナルティー」がその一因になっているとの見方は強い。
有力シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)は、7月に家庭学研究所(IFS)との共同プロジェクトでこの問題について報告書を発表した。
報告書によると、18歳以下の子供がいる世帯で、メディケイドやフードスタンプなど何らかの福祉手当を受給している割合は43%、5歳以下の子供がいる世帯に限ると、その割合は47%に達する。幼い子供のいる世帯のほぼ半数が政府から援助を受けていることになる。
問題の「結婚ペナルティー」については、収入が2万4000~7万9000㌦の低中所得層で、一番上の子供が2歳以下の未婚カップルの場合、結婚することでメディケイドやフードスタンプなどの受給資格を失う割合は82%に上るという。
収入が2万4000㌦以下の貧困層では、「結婚ペナルティー」を受ける割合は66%にとどまる。もともと収入が少ないため、結婚しても福祉の受給資格を維持できるケースが多いからだ。従って、「結婚ペナルティー」は貧困層よりも低中所得層に大きな影響を与えることが分かる。
報告書はその上で、一番上の子供が2歳以下の低中所得層の未婚カップルで、少なくともどちらか一方の収入が福祉の受給条件の上限に近い場合、「結婚ペナルティー」によって結婚する可能性が2~4%低下すると分析。また、18~60歳の米国人3000人以上を対象に実施された調査では、31%が「福祉手当を失うのを恐れて結婚しないことを選択した人を知っている」と回答したという。
報告書の執筆者の一人、ブラッドフォード・ウィルコックス・バージニア大学教授は「福祉は過去40年で一人親家庭や未婚の出産が急増した理由を説明する最重要要素ではない。だが、一部のカップルは福祉が結婚に対する考えを形成する一つの要素になっていると述べている」と指摘し、福祉が結婚離れの一因であることは否定できないとの見方を示す。
そもそも結婚離れがなぜ問題なのか。報告書はこれについて、「結婚は教育と仕事とともにアメリカンドリームの中心的な柱だ。結婚した男女は離婚した人や未婚の人に比べ、貧困に陥る確率が大幅に低く、生涯を通じてはるかに多くの世帯収入と財産を享受できる」と強調。また、結婚した両親に育てられた子供も「アメリカンドリームを実現する可能性が大幅に高い」と、安定した家庭は次世代に好循環をもたらすと主張した。
報告書は結論として、メディケイドやフードスタンプの受給条件を変えるなどして「結婚ペナルティー」を減らすことを提言。「低中所得層を支援する政府の取り組みが、助けようとしているまさにその家庭の安定を損ねることなど誰も望んでいない」と論じ、家庭を強化する方向に制度を改革すべきだとしている。