アップルとFBIの対立激化 、アイフォーンのロック解除問題で

 昨年12月に米カリフォルニア州で起きた銃乱射テロ事件の容疑者が使っていた携帯端末「iPhone(アイフォーン)」のロック機能の解除をめぐって、米連邦捜査局(FBI)とアップルの対立が激しくなっている。カリフォルニア州の連邦地裁はロックの解除を命令したが、アップル側は拒否。このため、米司法省が強制執行を求める申し立てを行うまでになっている。アップルが強硬姿勢を崩さない背景には、過去に米政府の個人データ収集に協力したことで批判を浴びたことが影響しているとの見方もある。(ワシントン・岩城喜之)

加州の銃乱射事件容疑者が使用

アップル、テロ対策より企業イメージを優先か

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2月23日、米ロサンゼルスのアップルストア前で、アイフォーンのロック解除命令に反対する活動家ら(UPI)

 FBIがアップルに対してロック解除を求めているアイフォーンは、昨年12月にカリフォルニア州サンバーナディーノの福祉施設で14人が死亡した銃乱射事件の容疑者が使用していたものだ。

 当初、事件は職場トラブルが指摘されていたが、米政府は最終的にテロと断定。容疑者がネット上に過激派組織「イスラム国」の指導者に忠誠を誓う書き込みをしていたり、別のテロを計画していたことも明らかになり、FBIは事件前の行動を分析するために端末のデータを調べる必要があると判断した。

 ただ、アイフォーンには強固なパスワードがかけられており、容疑者も死亡していることから、FBIはアップルに端末の中身を見られるようにすることを要請。アップル側が応じなかったことから、カリフォルニア州の連邦地裁が先月16日、ロックを解除する基本ソフト(OS)を特別に作製するよう命じた。

 しかし、アップルは「ロック解除は法的根拠が一切なく、悪しき前例となる」として拒否し、逆に命令の取り消しを求める申し立てをするなど強硬姿勢を示している。

 司法省は「一つの端末のロック解除だけを求めており、すべてのアイフォーンに適応されるわけではない」とするが、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は「政府が守ろうとする自由と権利を捨てることになる」として一歩も譲らない構えだ。

 FBIとアップルの対立が激化する中で、テロ事件の捜査とプライバシー保護のバランスをどう取るかをめぐる議論も活発になっている。また、米国で前例を作ると、政府に批判的な人物を取り締まる目的で裁判所命令を下す国が出てくる危険性も指摘されている。

 このため、グーグルの持ち株会社アルファベットやフェイスブック、マイクロソフトなどの大手IT企業は、アップルを支持する文書を共同で裁判所に提出することを計画している。

 ただ、米国民の間ではFBIを支持する声が多い。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが先月22日公表した世論調査によると、「ロック解除すべきだ」と回答した人は51%で、情報保護のために「ロックを解除すべきでない」との回答は38%だった。

 一方、アップルが命令に従わないのはプライバシー保護を重視する姿勢を見せる「ブランド戦略のため」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル、WSJ)で、テロ捜査より企業イメージを優先させているとの批判もある。

 アップルは数年前まで米政府の情報収集に協力姿勢を見せていた。しかし、米中央情報局(CIA)元職員エドワード・スノーデン容疑者が盗み出した資料から、アップルなどのIT企業が米政府の捜査に協力していたことが分かり、批判にさらされたことで方針を変えたとの見方もある。アップルでセキュリティーを担当していた元社員がWSJ紙に語ったところによると、スノーデン容疑者の暴露後、同社はセキュリティーとプライバシー重視の姿勢を強くしていったという。

 司法省の報道官も犯罪捜査で協力を要請するのは以前から変わらないとし、「アップルの方が協力姿勢を変えた」と強調する。

 また司法省はアップルが命令に従わないのは「ビジネスモデルとマーケティング戦略に基づく判断だ」と断言。アップルが気にしているのは「企業の評判が悪くなることだ」とし、国民の安全を守ることを優先すべきだと批判する。

 今後、ロック解除問題は法廷の場に移る。ただ、アップルに妥協する姿勢がないことから、米メディアは最高裁まで争われる見通しだとしている。