「トランプ阻止」2つのシナリオ
2016 米大統領選
奥の手は党大会で「談合」
対立候補一本化は難航
米共和党の大統領候補指名争いは、“暴言王”の実業家ドナルド・トランプ氏による指名獲得が現実味を帯びてきたため、党内で「トランプ阻止」の動きが活発化してきた。だが、1日の「スーパーチューズデー」を制したトランプ氏の指名獲得を防ぐ道は狭まってきており、残されたシナリオは①反トランプ候補を一本化する②党大会での「談合」に持ち込む――の2つに絞られつつある。(ワシントン・早川俊行)
まず、現在3人いるトランプ氏の対立候補を1人に絞り、反トランプ票を結集して逆転を図るシナリオだが、これは誰を統一候補とするかが大きな課題だ。
初戦アイオワ州や地元テキサス州などトランプ氏に次ぐ4勝を挙げているテッド・クルーズ上院議員がその筆頭候補だが、ネックは「党幹部がクルーズ氏をトランプ氏と同じくらい嫌っている」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)ことだ。保守強硬派と称されるクルーズ氏では、穏健派の票を吸収できないとの見方が強い。
むしろ、党主流派が推すマルコ・ルビオ上院議員のほうが幅広い勢力から支持を得やすく、統一候補のより現実的な選択肢といえる。
ただ、ルビオ氏がこれまでに勝利したのはミネソタ州のみで、15日に行われる地元フロリダ州の予備選で敗れれば、ルビオ氏の指名獲得は絶望的になる。そのフロリダ州でも、ルビオ氏はトランプ氏に支持率で20ポイント近くリードされている。
ジョン・ケーシック・オハイオ州知事は1勝もできずにいるが、15日の同州予備選に向けて選挙戦を継続している。当面、対立候補一本化の見通しはなく、反トランプ票が分散する状況が続きそうだ。
もう一つのシナリオは、逆に対立候補を乱立させ続け、トランプ氏による過半数の代議員獲得を阻止することだ。
トランプ氏が獲得代議員数で1位になっても過半数を阻止できれば、7月にクリーブランドで開かれる党大会で、代議員による再投票にもつれる可能性が高まる。各候補が獲得した代議員は最初の投票ではその候補に投票しなければならないが、2回目以降は自由に投票できる。党エリート層が再投票で「談合」し、トランプ氏以外の人物を大統領候補に選出する、というシナリオだ。
これはトランプ氏から強引に候補指名を奪い取る“奥の手”といえるが、党内ではトランプ氏を阻止する「最も現実的な方法」(ロバート・グラハム・アリゾナ州共和党委員長)との見方もある。ワシントン・タイムズ紙は、「談合」で選ばれる可能性がある候補として、ルビオ、ケーシック両氏とポール・ライアン下院議長の名前を挙げている。
ただ、エリート層が予備選・党員集会の結果を無視し、“密室”で大統領候補を選ぶこのシナリオは、熱狂的なトランプ氏支持層の離反を招くことは避けられない。有力保守派団体「米国保守同盟」のダン・シュナイダー事務局長は「彼らは11月の本選で投票を棄権するだろう」と警告している。