トランス選手が競泳女子席巻 米水泳連盟 参加基準を厳格化


米ペンシルベニア大学のトランスジェンダー競泳選手リア・トーマス選手(同大運動部のホームページより)

 米ペンシルベニア大学のトランスジェンダー競泳選手リア・トーマス選手が、他の女子選手を圧倒する結果を出していることが物議を醸している。トランス女子の参加が女子スポーツの公平性が損なわれるとの懸念が広がる中、米水泳連盟は1日、トランスジェンダー選手の大会への参加基準を厳格化することを決めた。

 同選手が全国的な注目を集めるきっかけとなったのは、昨年12月にオハイオ州で行われた3日間の大会で、2位以下を引き離しトップの座を席巻したことだ。米メディアによると、同選手は、200ヤード自由形と500ヤード自由形で、全米での今シーズン最高タイムを記録し、さらに1650ヤード自由形では2位に38秒もの大差をつけ圧勝した。

 トーマス選手は、以前は男子として2019年11月まで3年間競技を行っていたが、テストステロン(男性ホルモン)抑制療法を受けた後、女子として大会に参加するようになった。しかし、突出した結果を残したことで、対応を求める声が高まった。

 元競泳選手でロサンゼルス五輪の金メダリストのナンシー・ホグスヘッド氏が代表を務める非営利団体「チャンピオン・ウイメン」は1月26日、米水泳連盟に対し、「証拠に基づくトランスジェンダーへの資格審査」を採用することを求める請願運動を開始した。同団体は声明で、トーマス選手が3月に行われる全米大学体育協会(NCAA)主催の大会で米国の歴代最高記録を更新する可能性もあると指摘し、「大会が終わった後では、ダメージを取り消すのは困難だ」として早急な対応を求めていた。

 また、五輪で合計23個の金メダルを獲得した実績を持つ元競泳選手のマイケル・フェルプス氏は、CNNの番組でこの問題について尋ねられ、「非常に複雑」だとしながらも、「スポーツは公平な条件の下で行われるべきだ」と強調し、トーマス選手の女子チームへの参加に否定的な立場を示した。

 さらに英紙デイリー・メールによると、同大でトーマス選手と同じチームに所属する学生の両親たち約10人は昨年12月、NCAAに「女子スポーツの健全性が危機に瀕している」と訴える書簡を送った。その中で、「女子の公平な競争の場が確保されない前例は、すべてのスポーツにおける女子アスリートにとって直接的な脅威」だとして対応を求めた。

 大学スポーツを統括するNCAAの規則では、これまで1年間のテストステロン抑制治療を受ければ、女子競技に参加できた。しかし、批判が高まる中、NCAAは1月中旬に規則を変更し、各競技の統括団体が、それぞれトランス選手の大会参加基準を決めることにした。

 これを受け、米水泳連盟は新たなトランス選手の女子スポーツへの参加要件を発表し、テストステロンの数値が、3年以上連続で1㍑当たり5ナノモル未満でなければならないとした。トーマス選手は、2年半前からホルモン療法を開始したとされるため、3月の大会に出場できない可能性が高まっている。

 この問題が注目を集める中、トランプ前大統領も1月29日のテキサス州の演説で、「38秒差で相手を打ち負かせた」とトーマス選手について言及。自身が次期大統領選に出馬し、当選すれば「男性が女子スポーツに参加することを禁止する。ばかげたことだ」と訴えた。

(ワシントン 山崎洋介)