米大学にも中国の言論統制
米国の大学に通う中国人留学生が1989年の天安門事件の抗議者を支持したことで他の中国人学生から嫌がらせを受けたり、中国にいる家族が当局に脅迫されたりしたことが先月下旬、米メディアの報道で明らかになった。中国共産党による言論統制が米大学キャンパスにも及んでいることを改めて印象付けた。報道を受け、大学側は関与した学生を罰する方針を示すなど、厳しい対応を誓った。
(ワシントン・山崎洋介)
天安門批判の留学生を脅迫
学長は厳しい対応誓う
調査報道メディアの「プロパブリカ」によると、中西部インディアナ州パデュー大学に通う中国人留学生コン・ジーハオさんがソーシャルメディア上で政治的発言を始めたのは昨年3月だった。新型コロナウイルスの感染拡大が進んでいたこの時、コンさんは中国がウイルスの存在を隠蔽(いんぺい)することによって感染拡大を招いたと批判し、中国人を代表して謝罪するとした。
続けて同5月、天安門事件の抗議者を称(たた)えるメッセージを投稿。その中で「中国の民主化の未来は暗いままだ」と嘆き、中国でタブー視されている天安門事件について「われわれは沈黙することを拒否する」と宣言した。
その数日後、中国の秘密警察機関である国家安全部の職員がコンさんの実家を訪問。その後、両親は電話で泣きながら、こうした主張をやめるように促したという。また、同大の中国人留学生たちはコンさんを非難し、米中央情報局(CIA)工作員の疑いがあるなどとして、中国大使館や国家安全部に通報すると脅迫したという。
その後、コンさんは天安門事件の記念日である6月4日の反体制派によるオンラインイベントの招待を受け、ビデオ会議サービス「ズーム」によるリハーサルに参加した。ところがその数日中にも、国家安全部の職員が再びコンさんの実家を訪問。その後、両親は集会に出席するのをやめるよう懇願し、コンさんは結局そのイベントへの出席を諦めた。
コンさんはプロパブリカに「リハーサルは中国共産党によって把握されていたと思う」と語り、「私の学校の中国人学生の何人かは中国共産党員であり、単なる学生ではなく、スパイや情報提供者である可能性がある」と指摘した。
中国政府は、米各地の大学内にある中国学生学者連合会(CSSA)などを通じ、中国人留学生の発言を抑圧したり、著名な反体制派による講演会などの阻止を図ってきたことが知られている。米シンクタンク、フーバー研究所が2018年に発表した報告書によると、CSSAは在米中国大使館や領事館の政治部門が情報収集や動員を図るための「入り口」となっており、中国人留学生の言動に対しても圧力をかけている。
例えば、17年にメリーランド大学の中国人留学生が卒業スピーチで、中国国内の汚染された空気と対比して、米国の「言論の自由という新鮮な空気」を称えたことで、CSSAや中国国内のインターネット上で強い非難を浴び、謝罪に追い込まれた。
プロパブリカによると、大学経営陣は、こうした問題に介入することに必ずしも積極的ではない。米教育省によると、米国の大学は13年以来、中国の個人、企業、政府機関から10億㌦以上の寄付を受け取っており、約37万人いる中国人留学生からの授業料も大きな財源となっているからだ。
しかし、今回の報道を受け、パデュー大学側は毅然(きぜん)とした対応を示した。元インディアナ州知事(共和党)であるミッチ・ダニエルズ学長は15日に発表した声明で、脅迫を行った学生を特定すれば懲戒処分を科すと強調した上で、「外国政府と共謀して他の学生を抑圧する者は言うまでもなく、表現の自由を否定する者は別の場所に教育を求めるべきだ」と、容認しない考えを示した。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは18日付の社説でこの問題を取り上げ、「中国共産党は世界中に検閲を課そうとしている」と非難した上で、ダニエルズ学長の対応については、「中国政府にその主権がパデュー大のキャンパスには及ばないことを知らしめた」と評価した。