【上昇気流】三島由紀夫の小説『美しい星』は、埼玉県飯能市を舞台にしたSF風の異色作品


飯能市

 三島由紀夫の小説『美しい星』は、埼玉県飯能市を舞台にしたSF風の異色作品。主人公は飯能の材木商で、一家は突然、それぞれが別の天体から飛来した宇宙人だと目覚めたところから始まる。

 ところが地元の景勝地、入間川についても、材木商の商いについても、記述はほとんどない。主題とは関連がなかったからだろう。先日、飯能市にやって来たついでに、市立博物館に立ち寄ってみた。

 古い街の雰囲気が残る商店街を歩いてきたが、陶器店、お茶屋、そば屋などの一角に「高札場跡」があって、歴史を感じさせる。博物館で展示されていたのは、昔栄えた林業についてだ。

 山林経営や木材販売は地域経済の支柱だったという。入間川や高麗川で生産された木材は、西川材と呼ばれた。江戸から見て西の川から運ばれてきたからだ。筏(いかだ)流しは江戸中期から1965年まで続いた。

 その後、外国製木材に押されて林業は低迷していく。三島がこの小説を発表したのは62年。まだ材木商は繁盛していた。かつて使われた製材関係の用具は、県指定有形民俗文化財になっている。テノビノコ、カイリョウノコなどさまざまな種類のノコギリや、カマなど。

 扱われたスギ、ヒノキ、アカマツ、サワラも展示されている。林業が廃れて寂しいが、紹介されていたのは名栗湖畔の名栗カヌー工房。NPO法人で、スタッフの指導でカヌーの制作と販売を行っている。木材利用の新しい姿だ。